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〈中国〉専利審査指南の改正案

 中国国家知識産権局は,2020年9月30日付けで専利審査指南の改正案を発表し,2020年11月15日までパブリックコメントを募集していた。この改正案には7つの改正が示されているが,主な点として,出願後に提出された補足実験データ,化学分野の化合物発明の新規性,化学分野の化合物発明の創造性,バイオテクノロジー分野の発明の創造性に関する改正があり,それぞれの改訂点の概要を以下に記載する。
  1. 出願後に提出された補足実験データに関する改正点
     2017年4月1日付けで施行された専利審査指南の改正では,審査官は出願後に提出された補足実験データを審査しなければならない旨と,補足実験データにより証明される効果は,当業者が特許出願の開示から得られるものでなければならない旨とが明記された。今回の改正案では,補足実験データに関する例1および2が追記された。例1では,医薬化合物発明の特許出願において,対象化合物の調製方法,並びに,効果およびその測定方法が開示されているが,実験データが開示されていない場合,出願人が対象化合物の補足実験データを提出し,類似化合物が同じ効果を示すことを証明する先行技術を提示すれば,補足実験データにより証明される効果は特許出願の開示から得られるものであることが明記された。例2では,医薬化合物発明の特許出願において,対象化合物の調製方法,効果およびその測定方法,並びに,実験データが開示されている場合,対象化合物の創造性を証明するために,出願人が対象化合物および引用文献化合物の補足実験データを提出すれば,補足実験データにより証明される効果は特許出願の開示から得られるものであることが明記されるとともに,審査官は補足実験データを考慮して対象化合物が創造性の要件を満たすか分析することも付記された。
     例1は,特許出願に対象化合物の実験データが開示されていない場合であっても対象化合物の効果が認められ得ることを示している。一方,予想外の効果を主張することは困難と考えられ,対象化合物の創造性が認められ難いことを示唆している。例2は,特許出願に対象化合物の効果が開示されていれば,所謂後出しの実施例データであっても考慮されることを示している。
  2. 化学分野の化合物発明の新規性に関する改正点
     今回の改正案では,特許出願の対象化合物の化学名,分子式,構造式などの構造情報が引用文献に開示され,当業者が対象化合物は引用文献に開示されているとの見解に至る場合,出願人が出願日前に対象化合物を調製できなかったことを証明できない限り,対象化合物は新規性を有さないことが明記された。そして,引用文献に開示の構造情報が,特許出願の対象化合物と同一であると決定するのに不十分な場合であっても,引用文献に開示されているその他の情報(物理的および化学的パラメータ,調製方法,効果の実験データなど)を包括的に検討することで,当業者が対象化合物は引用文献に開示の化合物と実質的に同一であるとの理由を有する場合,出願人が双方の化合物の構造が実際に異なることを証明できない限り,対象化合物は新規性を有さないこととが明記された。
     後者は,審査官が,特許出願の対象化合物と引用文献に開示の化合物とが実質的に同一であるとの理由を,引用文献に開示の物理的および化学的パラメータ,調製方法,効果の実験データなどに基づいて説明しなければならないことを示している。
  3. 化学分野の化合物発明の創造性に関する改正点
     今回の改正案では,化学分野の化合物発明の創造性が,欧州の課題解決アプローチに近い手法である三歩法(3ステップ法)に従って判断されることが明記された。この三歩法は,1)特許出願の対象化合物と最も近い先行技術の化合物との構造的相違点を決定し,2)この構造的相違点により得られる用途および/または効果に基づいて,特許出願の対象化合物が実際に解決する技術的課題を決定し,3)先行技術がこの構造的相違点によりこの技術的課題を解決する動機付けを与えるかを決定する,という3ステップからなる。そして,現在の専利審査指南に記載されていた化合物発明の創造性を決定するための例1〜3が三歩法に従った内容に改訂されるとともに,例4および5が追記された。
  4. バイオテクノロジー分野の発明の創造性に関する改正点
     今回の改正案では,バイオテクノロジー分野の発明の創造性が,化学分野の化合物発明と同様に,課題解決アプローチに従って判断されることが明記された。また,バイオテクノロジー分野の発明には,生体高分子,細胞,個々の微生物などの様々なレベルが含まれ,発明を特徴づける方法は,構造,構成などの一般的な方法だけでなく,生物学的材料の寄託番号などの特別な方法も含まれるため,発明の創造性は,対象発明と先行技術との構造上の相違点,系統発生学的距離および技術的効果の予測可能性を検討する必要があることが追記された。そして,遺伝子工学に関して,遺伝子,組換えベクター,形質転換体,融合細胞およびモノクローナル抗体に係る発明の内容が拡充されるとともに,ポリペクチドまたはタンパク質に係る発明の内容が追記された。

〈参考ウェブサイト〉
中国国家知識産権局 ホームページ
https://www.cnipa.gov.cn/art/2020/9/30/art_78_152641.html
(参照日:2020年11月20日)

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