専門委員会成果物

特許法285条に基づく例外的との判断は,事件全体を考慮して他の事件から突出していると判断しなければならないとした事例

CAFC判決 2019年12月19日
Intellectual Ventures I LLC v. Trend Micro, Inc., et al.

[経緯]

 Intellectual Ventures I LLC(I社)は,Trend Micro, Inc. 他3社(T社)を特許侵害で地裁に訴えた。
 クレーム解釈において,地裁はI社側専門家の見解を参酌したが,公判ではこの専門家が見解を変更して 証言した。公判終了後,T社は専門家が変更した見解に関して地裁のクレーム解釈の説明を請求した。 ヒアリングにおいて,I社は専門家が実際には変えたにもかかわらず,見解を変更していないと主張した。
 地裁は特許が無効であると判決した。T社は,I社の専門家が見解を変更したことに関する事情により 地裁が例外的なケースを宣言するよう要求し,特許法285条に基づいて弁護士費用を請求した。地裁は, 事件全体は例外的ではないが,I社の行為が専門家証言の変更に関する事情についてのみ例外的であると 結論づけた。T社に弁護士費用を認めたため,I社は上訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下の様に説明し,事件が特許法285条の例外的にあたるかどうかを地裁が検討する際に, 地裁が適切な法的基準を適用したとは明確でないとした。
 地裁は,本件が客観的に不当であったか検討し,そうではないと判断した。また,本件が全体として例外的で あるか検討し,そうではないと判断した。にもかかわらず地裁は,専門家が変更した証言に関する事情のみが 他の事件から突出し,法の基準に適合すると判断した。
 事件が例外的であったかどうかを判断する代わりに,地裁は,事件の個別の部分が際立っていたかどうかに 焦点を合わせていたようであり,これは適切な分析ではない。地裁はこの事件においては,事件内の全事情の 一部として考えた時に,専門家が変更した証言に関する事情が例外的に突出した事件であるか判断しなければならない。  I社は,悪意,抜け目のない駆け引き,および不当な訴訟の位置づけなどの例が繰り返されている場合にのみ, 事件が例外的であると主張する。
 しかしCAFCも最高裁も,事件が例外的であるかの判断は地裁の裁量に委ねられており,事件の事情全体を 考慮してケースバイケースで判断できるとしている。単一の事実に基づこうがそうでなかろうが,地裁は事件 全体を考慮して,当事者の訴訟における地位の実質的な強さあるいは事件が訴訟された不当な手続に関し, 例外的,すなわち他の事件から突出していると判断しなければならない。
 CAFCは,地裁が,事件全体が例外的であるとは判断しなかったため,地裁の認定を破棄し,適切な法的基準に 基づく分析のために差し戻した。

(孫 天益)

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