専門委員会成果物

自明性分析において固有性がクレームの限定を補充し得ることを判示した事例

CAFC判決 2019年12月27日
Persion Pharmaceuticals LLC v. Alvogen Malta Operations Ltd.

[経緯]

 Persion Pharmaceuticals LLC(P社)は,肝障害を伴う患者の痛みの治療に関する2件の特許を保有している。
 P社は,Alvogen Malta Operations Ltd.(A社)がアメリカ食品医薬局に対して医薬品簡略承認申請を行った ジェネリック薬品が,上記2件の特許を侵害するとして,特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
 A社は,先行文献に基づき,2件の特許は自明であり,また十分に記載要件を満たさないため,特許性を 有しないと主張した。
 地裁は,2件の特許に記載されている薬物動態のパラメータは,2件の特許および先行文献の両方に記載された 製剤の処方において必然的に存在し,2件の特許のクレームにおける薬物動態の限定は,先行文献の処方を含む いかなる自明性の組み合わせにおいても必然的に存在する固有のものであると認定した。また,2件の特許は 記載要件を満たさないことも判断した。以上から2件の特許は無効であると判決した。
 P社は,この判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,2件の特許のクレームに含まれる薬物動態の限定に対する,地裁による固有性の適用は的確であり, 自明性に関する地裁の事実認定も明らかな誤りがないものと判断した。
 P社は,地裁の自明性分析における固有論の適用は誤りであり,患者に対するクレームの薬物動態値は, 先行文献の教示からは当然の結果となり得ないと主張した。
 CAFCは,クレームに示されていない限定が先行技術の要素の組み合わせによる必然的な結果である場合, 自明性分析において固有性がクレームの限定を補充してもよいと認定している。
 本件で地裁は,先行文献が示している要素の組み合わせがクレームの薬物動態パラメータを固有的に有している と判断した。当業者は成功の期待をもって,先行文献の処方を肝障害を治療する患者に投与する動機を有する。 先行文献の処方は争点の特許に開示された薬剤の処方と同一であり,クレームのパラメータを必然的に示して いる。CAFCは,クレームの薬物動態パラメータは固有のもので,薬物動態クレームに何ら特許性を与えないと した地裁の判断に誤りはない,と判断した。
 以上からCAFCは,2件の特許は自明性に基づき無効とする,地裁による決定を支持した。
 なお,CAFCは記載要件については検討しなかった。

(森山 智史)

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