専門委員会成果物

マーカッシュグループを有するクレームの解釈と均等論の適用について争われた事例

CAFC判決2020年1月7日
Amgen Inc. v. Amneal Pharmaceuticals LLC, et al.

[経緯]

 Amgen Inc.(AG社)は副甲状腺機能亢進症等の治療薬に関する特許を保有していた。Amneal Pharmaceuticals LLC(AN社),Piramal(P社),Zydusら3社は,関連する後発医薬品の略新薬承認申請を行ったため,AG社は 特許権侵害訴訟を提訴した。(次段落以降は,AN社とP社に絞って,争点を説明する。)
 地裁での1つ目の争点はマーカッシュグループを含むクレーム解釈に関する。主張クレームの移行句は 「comprising(含む)」の語句を使用し,本体部の「結合剤」はマーカッシュグループを用いた「consisting of (からなる)」の表現を使用していた。地裁は,クレームの「結合剤」は,マーカッシュグループに記載して いない結合剤に対しては閉じられるべきと判断した。そして,AN社の製剤はマーカッシュグループに記載している 結合剤と記載していない結合剤の両方を有していたため,地裁は,AN社は文言上非侵害であるとの判決を下した。
 2つ目の争点は,マーカッシュグループに記載していない結合剤のみを有する医薬品に対しての均等論の適用 可否に関する。審査過程において,審査官はマーカッシュグループの記載を追加することを提案し,それをAG社が 受け入れた形でクレームの補正が行われた。地裁は,この補正は特許性に関連する理由によるものであると結論 付け,包袋禁反言により均等論の適用はないと結論付けた。これにより,マーカッシュグループで記載されて いない結合剤のみを使用していたP社の医薬品は非侵害と判決された。
 双方ともに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,1つ目の争点について,AG社の内部証拠において結合剤がマーカッシュグループ内になくては ならないことを示す十分な根拠はないと判断した。さらに,クレームの移行句が「comprising」を使用して いること,結合剤の修飾語が「at least one」を使用していることを理由に,クレームは,マーカッシュ グループに記載されていない追加の結合剤を含むことを排除しないという判断を下した。これらの判断に基づき, CAFCは地裁のクレーム解釈を棄却し,AN社に対する非侵害判決を破棄して審理を地裁に差し戻した。
 一方,均等論の適用に関してCAFCは,審査官が補正を提案する理由は拒絶に打ち勝つためであったと推定し, 審査官提案による補正は特許性に関連すると判断した。AG社はこの補正が先行技術の拒絶に対する応答では ないこと,および,結合剤が均等物を含むことを主張する書類を提出していたが,CAFCは,その書類が クレームが許可された8か月後に提出され,かつ,定型的な書類にすぎないとして,上記の推定を克服するには 不十分であると判断した。これらの判断に基づき,地裁によるP社に対する非侵害判決については維持するとの 判決を下した。

(小松 崇徳)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.