専門委員会成果物

先行技術とはならない実験データ等を参照し,クレームの限定が内在的性質であると認定した事例

CAFC判決2020年1月9日
Hospira Inc. v. Fresenius Kabi USA, LLC

[経緯]

 Fresenius Kabi USA, LLC(F社)は,Hospira Inc.(H社)が製造販売している鎮静剤(注射液)である, Precedex Premix(有効成分としてDexmedetomidine(DEX)を含む)のジェネリック医薬品を発売するために 簡易新薬申請を行った。これに対しH社は,F社の行為が特許8,648,106のクレーム6(’106特許)を侵害して いるとして特許権侵害訴訟を起こした。
 ’106特許は,「密閉されたガラス容器に入った,そのまま使用できるDEX含有液状薬剤組成物」に関するもので あり,「DEX濃度が約4μg/mL」,かつ,「少なくとも5ヶ月の保存期間において,DEX濃度が2%以上減少しない 」こと(2%限定)を規定していた。
 地裁は,「DEX濃度4μg/mL」という態様は先行技術に明示されていると認定した。2%限定の要件については, F社が提出した4μg/mLのDEX溶液の安定性についての実験データ及び専門家証言に基づいて,4μg/mLのDEX溶液 の内在的性質であると認定し,’106特許は先行技術から自明であり,無効であると判断した。
 H社はこの判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,’106特許は自明であるとした地裁の判決を支持した。
 内在性の分析において,地裁が過去の判例に基づき,’106特許の優先日後に得られたデータに依拠することに 誤りはなく,F社実験データを参照して,先行技術中にDEX溶液の内在的性質を見出すのは適法であるとした。
 また,’106特許には製造方法による限定や安定性を向上させる成分の追加によるクレーム限定等はなく, 本発明は単にDEX溶液の内在的性質を見出したものにすぎないとした。H社は,製法が2%限定の理由であること, あるいは製法を変えると2%限定でなくなる例を示す,など,裁判所を十分説得できる証拠を示さなかった。
 そして,CAFCは,もともと備わっているべき内在的特性をクレームに取り込んでも,クレームは非自明と ならないと判断した。

(間中 知幸)

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