専門委員会成果物

クレームの数値限定が先行技術とわずかにでも重複する場合,予測性および自明性が確立されるとした事例

CAFC判決2020年1月10日
Genentech, Inc. v. Hospira, Inc.

[経緯]

 Hospira, Inc.(H社)は,Genentech, Inc.(G社)が保有する特許7,807,799(’799特許)のクレーム (クレーム1等)を対象とする当事者系レビュー(IPR)を請願した。’799特許は,プロテインAアフィニ ティクロマトグラフィーを使用してCH2/CH3領域を含む抗体タンパク質を精製する方法に関し,10-18℃の温度 にて精製する旨の構成要件を含むものである。
 PTABは,先行技術が,CH2/CH3領域を含むタンパク質である抗体の培養流体を,プロテインAアフィニティク ロマトグラフィーにかけて精製する方法を示し,その全工程を室温(18-25℃)で行うことを教示していることに 基づき,温度範囲はクレームの範囲と重複すると認定した。そして,先行技術とクレームの数値範囲とが異なって いるがわずかでも重複するのであれば,一応の予測性及び自明性を確立できるとし,これに対しG社がクレームの 10-18℃の範囲について臨界性を証明できていないと判断した。以上より,’799特許のクレームは特許性を有 しないと判決した。
 G社は,判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABの判決を支持した。
 控訴にあたりG社は,PTABが先行技術の「10-18℃でクロマトグラフィーを行う」を,「クロマトグラフィーの 前及び/又はクロマトグラフィー中」の温度を指すものと解釈したことに対し,先行技術は研究室の温度のみを 指しているのであり,クロマトのカラムにかける培養流体の温度を室温に下げることは示されていないと 主張した。しかしCAFCは,PTABが専門家証言に基づき,カラムより温かい流体の温度を下げずにクロマト カラムにかけることはシステム全体の温度を上げてしまうため,当業者は温かいままの流体をカラムにかける ことはしないと判断しており,その判断に誤りはないとして,G社の主張を認めなかった。
 また,数値範囲の重複がわずかであっても一応の自明性を確立でき,特許権者は,クレームの数値範囲に 特別な,あるいは臨界的なものがあることを示すことにより反論できるが,G社は反論しておらず,PTABの 認定が証拠に基づいていないとすることも示していない,とCAFCは判断した。

(中島 洋介)

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