専門委員会成果物

IPRにおいて,審査開始すべき無効理由に関する判断基準を判示した事例

CAFC判決 2020年1月30日
Koninklijke Philips N.V. v. Google LLC, et al.

[経緯]

 Google LLC(G社)は,Koninklijke Philips N.V.(P社)が保有する特許の一部クレームを対象とする inter partes review(IPR)を請願した。PTABは,先行文献(SMIL 1.0)と一般知識に基づき当該クレームは自明とする第一の理由,及び請願書で申し立てられなかったがPTABが裁量で審査開始を決定した第二の理由について審査開始を決定した。
 PTABは,第一および第二の理由により,審理対象とされた全てのクレームは自明であるとして,特許性を有しないとする決定を下した。この判決を不服として,P社はCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 第一の理由に関するPTABの判断は以下の通り。P社は,特許法311条(b)に基づき,IPRで扱われる先行技術は 特許文献または公開文献に限られるため,これらの文献に該当しない一般知識を用いる事は誤りであると主張した。 しかし,CAFCは,先のCAFC判決(KSR Int’l Co. v. Teleflex, Inc., 550 U.S. 398, 401)等に基づき,IPRにおける自明性の判断は,当業者が有する知識を用いてされるべきと指摘した。その上で,CAFCは,第一の理由における一般知識はIPRにより扱われるべきであるためP社の主張を否認し,審理対象とされた全てのクレームは自明であるとして無効としたPTABの結論を支持した。
 また,第二の理由に関するPTABの判断は以下の通り。第一の理由で用いられた先行文献と別の先行文献(Hua) に基づき,当該クレームは自明とする第二の理由を請願書にて申立てられていなかったにもかかわらず,PTABが裁量で審理を開始したことは誤りであると,P社は主張した。CAFCは,先のCAFC判決(SAS Inst. Inc. v. Iancu, 138 S. Ct. 1348, 1355)に基づき,請願書は無効の審査開始を申立てるものであり,その審査対象はあくまで請願書に含まれる無効理由であることを指摘した。更に,特許法314条(b)に基づき,PTABは請願書に含まれる無効の理由の審査開始を決められるが,請願書に含まれない無効の理由を裁量で審査することはできないと示した。 その上で,第二の理由は請願書で申立てられなかったため,CAFCはPTABが裁量で第二の理由の審査を開始したことは誤りであるとするP社の主張を認めた。

(山本 達也)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.