専門委員会成果物

地裁が専門家証人として資格のない証人の証言を認め,再審理の申し立てを拒否したことは,裁量権を濫用したとされた事例

CAFC判決 2020年2月5日
HVLPO2, LLC v. Oxygen Frog, LLC, et al.

[経緯]

 HVLPO2, LLC(H社)は,Oxygen Frog, LLC(О社)がH社の所有する特許を侵害したとして地裁に訴えた。 地裁は略式判決を下しО社の侵害を認定した。その後の陪審裁判において,О社は2つの先行技術の組み合わせにより当該クレームは自明であると主張した。一方,当該先行技術の証人(P氏)は専門家証人としての資格はなく,事実証人として証言を行っており,自明性に関して証言することは不適切であると,H社は異議を唱えた。 地裁は異議を却下し,P氏が供述証言をする前に陪審員に対して制限的説示を与えた。制限的説示では,証人は自明性に関する意見を述べることができるが,自明性を決定するのは陪審員次第であるとした。 その後,当該クレームは自明であるとするP氏の証言は陪審員に向けて行われた。陪審は特許クレームが自明であるとする評決を行った。
 H社は,JMOLもしくは再審理を申し立てたが,地裁がこれを拒否した為,控訴した。

[CAFCの判断]

 地裁の制限的説示は,P氏の証言によって生じた偏見を矯正するには不十分であり,地裁は再審理の申し立てを 拒否することで裁量権を濫用したと,CAFCは判示した。
 P氏の証言は,自明性とその根本をなす技術的問題の結論に向けたもので専門家証人の範疇であり,一般証人の 範疇ではない。従って,一般証人であるP氏の証言は認められないと,CAFCは判断した。
 これに対し,O社は,P氏の証言が不適切であるとしてもその誤りは害をなさず,地裁は陪審員に対して制限的説示を与えることで偏見の影響を矯正したと,主張した。
 しかしCAFCは以下の様に説明した。H社は,P氏の証言により自明性の最終判断において重大な偏見を抱かれて おり,P氏の証言が害のない誤りとはいえない。そして,例えば不適切な証言を無視するよう地裁が陪審員に説示することで偏見の影響を矯正することも可能である。しかし,本件での地裁の制限的説示は,陪審員に対して,P氏の証言を自明性とその根本をなしている技術問題の証拠として考えるよう,不適切に容認するものであった。
 したがって,地裁が一般証人に自明性に関する証言を認め,再審理の申し立てを拒否したことは,裁量権の濫用で あるとして,CAFCは地裁の判決を棄却し,再審理のために差し戻した。

(高畑 匡宏)

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