専門委員会成果物

ライセンスを受けている特許の継続出願も,黙示的に当該ライセンスの範囲内に含まれることが示された事例

CAFC判決 2020年2月13日
Acoustic Technology, Inc. v. Itron Networked Solutions, Inc.

[経緯]

 Acoustic Technology, Inc.(A社)は自社の保有する特許に基づき,2016年7月29日にSilver Spring Networks Inc.(S社)に対して特許侵害訴訟を提起した。
 これに対し,S社は当該特許を対象とするinter partes review(IPR)を2017年3月3日に請願した。このIPRについて,PTABは,2017年9月8日に審理開始決定を下し,その後2018年8月21日に当該特許を無効とする最終決定を下した。
 このIPRの期間中,S社は審理開始通知の後に,Itron, Inc.(I社)との合併について合意し,最終決定の7か月以上前に合併を完了し,現在のItron Networked Solutions, Inc.となった。I社は2010年3月に当該特許を用いた特許侵害訴訟を受けておいたが,A社はPTABに対してこの合併に依拠して,特許法315条(b)に規定するIPRの時期的要件(IPRの請願人,又は請願人の利益当事者がIPRの対象特許を用いた特許侵害の訴状を送達された日から1年より後に,IPRの請願を提出した場合は,審査を開始することができない)についての議論を提起しなかった。
 A社は無効決定を不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 A社は,S社と合併したI社が,2010年3月に当該特許を用いた特許侵害訴訟を受けておりかつ,当該IPRにおける利益当事者であることから,このIPRは特許法315条(b)に規定する時期的要件を満たしていないと控訴審に入ってから初めて主張を行った。
 しかし,A社は,S社とI社の合併についてIPRの最終決定の7か月以上前にこの合併の事実を知っていたにもかかわらず,PTABに当該時期的要件についての議論を提起しなかった。したがって,A社は当該時期的要件の主張を放棄したとして,CAFCは地裁の判決を維持すると判決した。
 なお,S社およびI社は,審理開始通知が出た9日後である2017年9月17日に,I社との合併について合意し,翌日には公式発表をした。さらに合併の完了した後も2週間もたたないうちにS社は,Mondatory NoticeにI社を利益当事者として加えるように補正していた。
 また,CAFCはPTABに対し時期的要件の議論を提起できたような状況で,控訴審になってから新たな議論をすることを認めるのは不公正に当たると付け加えた。

(渡邊 英行)

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