専門委員会成果物

血中DNAのサイズ分布という発見を利用して特定サイズのDNAを抽出する発明が特許適格性を有すると判断された事例

CAFC判決 2020年3月17日
Illumina, Inc., et al. v. Ariosa Diagnostics, Inc., et al.

[経緯]

 Illumina, Inc.ら(I社)は,母体DNAから無細胞胎児DNAを分離する方法に関する特許9,580,751(’751特許)と特許9,738,931(’931特許)を 保有する。I社は,Ariosa Diagnostics, Inc.ら(A社)を特許権侵害として地裁に提訴した。A社は,’751特許と’931特許のクレームは 特許法101条下の特許適格性を有しないとする略式判決を求め,地裁はこの申立てを認めた。I社は判決を不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,Aliceの2ステップテストを適用し,そのステップ1において,特許が発見された自然現象自体をクレームとしているのか,又は自然現象 の発見を利用する適格性主題をクレームしているのかのどちらかが争点であるとした。
 ここで,A社らは,’751特許等の発明者が発見したのは血液中の胎児と母体の無細胞DNAのサイズ分布という自然現象であると主張した。
 CAFCは’751特許等のクレームが,胎児DNAと母体DNAの相対的なDNAサイズ分布を検出するものや,無細胞胎児DNA自体を対象としているもの ではなく,母体DNAを選択的に除去することで,胎児DNAが豊富なDNA断片を区分する方法を対象としていると判断した。
 さらにCAFCは,「クレームが,肝細胞の一部が凍結融解サイクルに耐え得るという現象を単に観測したものではなく,新規で便利な肝細胞 の保存方法を指向している」として特許適格性ありと判決したRapid Litig. Mgmt. Ltd. v. CellzDirect, Inc., 827 F.3d 1042, 1050 (Fed. Cir. 2016)を引用し,’751特許等のクレームが,胎児DNAと母体DNAの相対的なサイズ分布という現象ではなく,この相対的なサイズ分布の発見を利用して血中の母体DNAを選択的に除去して胎児DNAの相対的な量を増大させる方法を指向している点で特許適格性が あると判断した。
 この判断に基づき,CAFCはステップ2に進むことなく,クレームは特許適格性があると判断し,地裁の決定を棄却し差し戻した。

(丸山 佳彦)

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