専門委員会成果物

製造方法の発明に関するライセンスは,特許法102条(b)の販売に基づく新規性の喪失(on-sale bars)に該当しないと判断された事例

CAFC判決 2020年4月8日
BASF Corporation v. SNF Holding Company, et al.

[経緯]

 BASF Corporation(B社)は,高分子量ポリマーの製造方法に関する米国特許5,633,329(’329特許)の特許権者である。B社は,SNF Holding Company(S社)らが’329特許を侵害しているとして地裁に訴えた。S社は’329特許の全クレームについてIPRを請願したが,特許審判部はS社の主張を認めなかった。
 その後,S社は,’329特許がSanwetプロセスから自明であると主張し,無効の略式判決を求める申立を行った。Sanwetプロセスは,Sanyo Chemical Industries, Ltd.(SC社)が開発した製法で,’329特許の発明と類似するものである。1985年,SC社はCelanese社(C社)に,米国におけるSanwetプロセスを用いた高分子量ポリマーの製造,使用,販売の独占ライセンスを付与した。さらに,SC社はC社へ広範な技術情報を提供し,C社の工場操業開始のために技術スタッフを派遣した。C社は10年間のSC社の秘密情報の守秘義務を負い,工場操業のために必要な社員等のみに開示することが許可されていた。開示された社員等もC社と同様の守秘義務を負った。
 地裁は,SC社の技術情報の提供と操業補助とともにされたライセンス契約は,単なるライセンスではなく,販売と同然であると結論付け,特許法102条(b)の販売に基づく新規性の喪失(on-sale bars)に該当し,無効であるとした。
 B社は,この地裁判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,S社の主張する特許法102条(b)の販売に基づく新規性の喪失を退け,原判決を覆し,地裁に差し戻した。
 Kollar判決では,ペルオキシドの製造方法に関する特許を有するKollar社が,当該方法を実施するために第三者にノウハウを提供しロイヤルティを受領するライセンス契約は販売に該当しないと判断された。CAFCは,本件はKollar判決を基準とするべきだと判断した。’329特許のクレームの本質的な特徴は,基準日より前に販売または販売の申し出がされた製品に包含されていなかったため,SC社のC社に対する独占ライセンスの付与は,販売には該当しないとした。

(下尾 祐未)

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