専門委員会成果物

クレームの変更により米国政府に対する補償が認められなかった事例

CAFC判決 2020年4月10日
Larry Golden v. United States

[経緯]

 2013年,Larry Golden(L社)は,米国政府がL社の特許権(特許RE43,990)を侵害するとし,米国連邦請求裁判所に訴訟を提起した。L社は,長年に亘って主張を追加し,訴訟内容を5回修正してきた。その中で,L社は,28 U.S.C § 1491(a)に基づく米国政府による取締りに関する主張を追加し,米国政府がL社の特許技術を補償なしに公共利用のために供したと主張した。更に,L社は,米国憲法修正第5条による私有の財産権の保障が認められるべきと主張した。
 米国連邦請求裁判所は,L社の主張を却下した。その理由として,米国連邦請求裁判所は,米国政府から請求されたIPRにて特定の特許のクレームがキャンセルされたことを挙げると共に,新しいクレームの審理が米国連邦請求裁判所の管轄にないことを挙げた。また,米国連邦請求裁判所は,L社の特許権が米国憲法修正第5条で認められている私有の財産権ではないと判断した。
 L社は,この米国連邦請求裁判所の判決を不服として,CAFCに控訴した。
 B社は,この地裁判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 まず,CAFCは,L社が特許侵害と主張するクレームがIPRによりキャンセルされ,新しいクレームの審理が米国連邦請求裁判所の管轄になかったという米国連邦請求裁判所の判断に誤りはないと判断した。また,CAFCは,米国政府から特許権者への補償の請求については,28 U.S.C § 1491(a)ではなく28 USC § 1498に基づく必要があることを主張し,28 USC § 1498が米国政府に対する特許権侵害を追求する唯一の手段であることを示した。
 次に,CAFCは,米国政府がIPRの手続を行うことについて,違憲ではないと判断した。また,CAFCは,IPRにおいてクレームがキャンセルされた特許審判部の最終決定に対してL社が控訴しなかったことを,L社の自発的な行動の結果であると主張し,L社の特許のクレームが確定したと判断した。
 更に,CAFCは,L社の米国憲法修正第5条に関する主張をCAFCに対して行わなかったため,米国憲法修正第5条に関する米国連邦請求裁判所の判断が確定されたことを示した。
 以上のように,CAFCは,米国連邦請求裁判所の判断を全面的に支持し,米国連邦請求裁判所と同様,L社の主張を否定した。

(入江 弘康)

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