専門委員会成果物

IPRの開始決定に対し,時機を逸した請願であることを理由とした上訴はできないと判断された事例

最高裁判決 2020年4月20日
Thryv, Inc., et al. v. Click-To-Call Technologies, LP, et al.

[経緯]

 Thryv, Inc.(T社)は匿名電話技術に関するClick-To-Call Technologies, LP(C社)の特許に対してIPRを請願した。特許侵害訴状が送達された日から1年以上経過した後にIPRを請願した場合,IPRは開始されない(特許法315条(b))。T社の前身企業は請願の1年以上前に特許侵害訴状を受け取っていたため,C社は,T社の請願が時機を逸していると主張した。
 しかしPTABは,当該訴訟が途中で自発的に取り下げされたため,315条(b)の1年の制限をもたらさないと判断し,IPRを開始した。そして,PTABはC社の多くの特許クレームを無効とする決定をした。
 C社は上訴した。CAFCはT社の請願が315条(b)の規定に該当するとしてPTABの決定を取り消した。
 T社はこれを不服とし上告した。最高裁での争点は,IPRの開始決定について司法審査を禁じる特許法314条(d)が,C社がCAFCにした上訴をも禁ずるか,という点である。

[最高裁の判断]

 314条(d)は,「IPR開始の決定は最終的なものであり,上訴できない」とする規定である。最高裁は,314条(d)の条文と最高裁判例(Cuozzo Speed Technologies, LLC v. Lee, No. 15-446)を基に,IPR開始決定に対する上訴はできないとして,CAFCの判決を取り消した。
 判例では,「IPRの開始決定を不服とする根拠が,開始決定に関連した法令の適用や解釈と密接に結びついている場合」,「314条(d)により上訴できない」と述べている。
 本件においてC社が開始決定を不服とした根拠は315条(b)であり,開始決定に関連した法令である。そのため最高裁は,C社は315条(b)を根拠とした開始決定の上訴はできないと認定した。
 さらに最高裁は,AIAの立法趣旨に言及した。IPR制度の目的は「欠陥のある特許クレームを効率的に排除すること」だとした上で,315条(b)を根拠とした上訴を認めれば,特許問題解決に費やすべきリソースを無駄に使い,欠陥のある特許クレームが法的強制力を有したままになるため,この目的に反するとした。
 また,請願者が315条(b)を満たさなくても,別の請願者の要求でIPRは開始しうる(特許法311条(a))し,別の請願者により開始されたIPRに加わることもできる(特許法315条(c))。さらに,たとえIPR途中で請願者がいなくなっても,PTABは最終決定を下すことができる(特許法317条(a))。すなわち,請願者の315条(b)の遵守よりも特許性の有無を検討することを優先する法体系であるから,最高裁は,315条(b)への訴えができないことは驚くべきことではないとした。そして,315条(b)の目的はIPRと特許侵害訴訟との間に重なる負担を最小限にすることであるとし,315条(b)に関する上訴ができなくとも,319条により最終決定を控訴することはできるので,特許クレームを不当な無効化から保護することはできる,とした。

(小澤 ゆい)

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