専門委員会成果物

控訴人が実損を被ったことを証明できなかったため憲法第3条の当事者適格を欠くと判断された事例

CAFC判決 2020年4月23日
Argentum Pharmaceuticals LLC v. Novartis Pharmaceuticals Corporation

[経緯]

 Apotex Inc.およびApotex Corp.は,Novartis Pharmaceuticals Corporation(N社)の特許9,187,405(’405特許)の当事者系レビューを求める請願書を提出した。PTABは審理の際,Argentum Pharmaceuticals LLC(A社)を含む複数の請願者から要求があり,特許法315条(c)に基づいて併合参加を承認した。
 審理開始後,N社はクレーム補正の申立をした。PTABは請願者らがクレームに特許性がないことを示していないと結論付け,補正の申立を却下した。請願者らはPTABの判断に対して控訴したが,控訴の間にA社以外の全ての請願者がN社と和解した。
 最初の準備書面が提出される前に,N社は当事者適格の欠如に基づきA社の訴え却下を申し立てた。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,当事者適格を証明する為には,A社は,(1)実損を被ったこと,(2)そのことを被告の申立行為に適正に帰することができること,および(3)有利な判決によって救済される可能性が高いこと,を示す責任を負うとした。
 A社は,本裁判の救済を求める機会がなければ,N社のジェネリック製品のANDA申請中にあるパートナー会社のKVK-Tech Inc.(K社)と共同で続けている訴訟の現実的かつ差し迫った脅威に直面すると主張した。これに対しCAFCは,如何なるANDAもA社の製造及びマーケティングパートナーであるK社によって申請され,N社は必然的にK社を訴えることになるが,ANDAは申請されておらず,A社が,ANDA手続きに関与することで侵害訴訟等のリスクを負うことを示す一般的な陳述以上の証拠を示していないとした。
 また,A社は,ジェネリック製品の開発およびANDAの準備への投資は,N社による迫り来る侵害訴訟のリスクに晒される為,重大な経済的損害を被ると主張した。これに対しCAFCは,A社は,A社とK社がFDAへのANDA申請に向けて努力してきたことと,A社はその為に多大な工数と資源を投資してきたことを一般的に述べただけであり,「具体的かつ事例的」で,「実際的または差し迫った,推測的または仮説的ではない」実損を十分に立証していない,とした。
 更にA社は,この裁判の救済がなければ,将来の侵害訴訟で特許性と有効性の問題を提起することを禁止されると主張した。これに対しCAFCは,過去の判例で当事者適格の根拠として禁反言規定の援用は既に否定されているとした。
 以上より,CAFCはA社が当事者適格を立証する為に必要な実損を被ったことを証明できなかったとして,A社は憲法第3条の当事者適格を欠くと判示し,控訴を却下した。

(高畑 匡宏)

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