専門委員会成果物

代替品が開示された実施態様とクレームされている実施態様が異なる場合であっても,代替品がクレーム限定事項の目的を果たす場合にはDedicationの法理が適用される点を判示した事例

CAFC判決 2020年5月8日
Eagle Pharmaceuticals Inc. v. Slayback Pharma LLC

[経緯]

 Eagle Pharmaceuticals Inc.(E社)は,ベンダムスチン医薬品に関する4件の特許を保有しており,Slayback Pharma LLC(S社)のジェネリック医薬品が,上記4件の特許を侵害するとして地裁に提訴した。
 上記特許では,プロピレングリコール(PG)を含む「薬学的に許容される液体」がクレームされているが,S社の医薬品に含まれるエタノールが,上記PGとは実質的に相違せず,均等論が適用されると,E社は主張した。
 E社の特許は明細書中でエタノールをPGの代替品として開示しているが,クレームされていないため,Dedicationの法理によりE社の均等論に基づく侵害の主張は認められないと,S社は主張した。
 E社は以下の通り主張した。エタノールをPGの代替品として明細書中で開示しているのは,クレームされていない塩化物塩を含む製剤であって,クレームされている抗酸化剤を含む製剤についてエタノールをPGの代替品とする旨を開示しているわけではない。
 これに対し地裁は,E社の上記特許では明細書中でエタノールをPGの代替品とすることが明確かつ繰り返し開示されているとし,Dedicationの法理が適用されるとの判決を下した。
 E社は,この判決を不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 Dedicationの法理は,クレームされた実施態様と完全に一致する実施態様において代替品が明細書中に開示されていることを必要としない(285 F.3d at 1052)。そして,クレーム限定事項に関連性のある代替品として,クレームしていない事項を明細書中で開示してさえいればよい(429 F.3d 1364, 1378 (Fed. Cir. 2005))とする見解を確認した。したがって,E社の特許明細書中には「薬学的に許容される」というクレーム限定事項においてPGの代替品としてエタノールが繰り返し開示されており,これらの開示が特定の製剤に限定されること,またはクレームされている製剤に及ばないことを示唆するものではないと判断した。
 また,Dedicationの法理は,明細書中に開示されている代替品が関連するクレーム限定事項の目的を果たさなければ認められない(429 F.3d at 1379)。しかし,E社の特許には,PGの利用目的として「薬学的に許容される」という点しかクレームされておらず,エタノールがその目的を果たす代替品として明細書中で繰り返し開示されている。したがって,クレームされている実施態様においてエタノールが上記目的を果たさないとは言えず,Dedicationの法理が適用されると判断した。
 以上よりCAFCは,S社の製品はE社の特許に非侵害であるとする地裁の判決を支持した。

(成田 涼一)

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