専門委員会成果物

併合当事者に対し，当初の請願書には記載しなかったもののSAS最高裁判決後に再レビューされた請求項に関する最終書面決定へ控訴する権利があるとされた事例

CAFC判決　2020年７月８日
Fitbit, Inc. v. Valencell, Inc.

［経緯］

　Valencell, Inc.（Ｖ社）は特許8,923,941（’941特許）の特許権者である。
　Apple Inc.（Ａ社）は’941特許の全クレームに対してIPRを請願し，PTABは請求項１，２，６～13に関してレビュー開始の決定を下した。その後Fitbit, Inc.（Ｆ社）も’941特許の請求項１，２，６～13に対してIPRを請願すると共に，Ａ社のIPRへの併合を申立てた。PTABはＦ社の請願を認め，Ａ社のIPRに参加することになった。
　Ａ社のIPRの最終書面決定が出る前にSAS最高裁判決（SAS Institute, Inc. v. Iancu, 138 S. Ct. 1348（2018））が示されたことから，PTABはレビュー開始しないとしていた請求項３～５を含めた全クレームについて再度レビューを行い，請求項１，２，６～13は自明のため特許性が無く，一方請求項３～５は非自明のため特許性があるとする最終書面決定を示した。
　Ａ社はIPRから離脱したが，Ｆ社は請求項３～５に関する最終書面決定を不服としてCAFCに控訴した。これに対してＶ社は，Ｆ社の当初のIPR請願が請求項１，２，６～13に対してであったため，請求項３～５に関する最終書面決定に対してＦ社が控訴する権利はないと主張した。

［CAFCの判断］

　CAFCは，Ｆ社が請求項３～５に関する最終書面決定に対して控訴する権利があると判断した。
　CAFCは，特許法315条に定められている併合された当事者は，「IPRのいかなる当事者も不服申立ての当事者となる権利を有する」という特許法319条の規定に従って控訴できるとした。そのうえでCAFCは，Ⅴ社が，IPR当事者としてのＦ社の併合に異議を唱えなかったこと，PTABが請求項３～５に関して再レビューを行うと決めた際にＦ社が引き続きIPRに参加することに対して異議を唱えなかったこと，また，請求項３～５がIPRに加えられた後にＦ社が別途に書面を提出することは要求されないこと，等を挙げ，これらによってＦ社の控訴する権利は無効にならないとした。
　Ｖ社は，Ｆ社のIPR請願と併合の申立てがＶ社のＦ社に対する地裁への提訴から１年以上経過した後に行われたものであると主張した。しかしCAFCは，IPRの開始決定に対する上訴は出来ないとする最高裁判決（Thryv, Inc. v. Click-To-Call Technologies, LP, 140 S. Ct. 1367（2020））を根拠に，Ｖ社の主張を認めなかった。
　CAFCは，参加当事者としてのＦ社の権利が訴訟手続き全体に適用され，Ｆ社がIPRの最終書面決定に対して控訴する権利を有すると判断した。
　なおCAFCは，請求項３～５は特許性があるとする最終書面決定を差し戻し，改めて特許性を検討するよう命じた。

（河合　孝広）

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