専門委員会成果物

共同発明者の貢献は発明の全体の作業に及ぶ必要はないと示された事例

CAFC判決 2020年7月14日
Dana-Farber Cancer Institute, Inc. v. A社, et al.

[経緯]

 Dana-Farber Cancer Institute, Inc.(D社)は,A社,本庶佑博士(H氏),E.R. Squibb & Sons, L.L.C.及びBristol-Myers Squibb Company(A社ら)に対し,抗PD-1抗体のがん治療用途に関する特許8,728,474(’474特許)他複数の米国特許について,Gordon Freeman博士(F氏)及びClive Wood博士(W氏)を共同発明者として加えるべきだと主張して地裁に訴えた。地裁はD社の主張を認め,両氏を共同発明者として加えるよう命じた。A社らはその判決を不服として,CAFCに控訴した。
 本件の背景となる特許出願までの経緯は以下の通りである。H氏は1990年代初頭にPD-1受容体を発見し,PD-1が免疫系抑制に関与していることを示唆するデータを取得した。1998年,H氏は,W氏と知り合い,共にPD-1のリガンドを探索することに合意した。また,同年,PD-1に結合する分子を発見していたD社の研究員であるF氏は,PD-1/PD-L1経路に関する研究協力のためにH氏に会っている。そして,三者は情報の共有や試薬の交換をし始めた。しかしながら,最終的には,H氏は,W氏,F氏が関わらない,同僚たちとの実験で多くのデータを取得できたため,W氏,F氏との実験結果の共有を中止した。そして,H氏は,2002年,自らと同僚たちとの実験結果をもとに,日本で優先権を主張するための特許出願を行った。

[CAFCの判断]

 CAFCは,「共同発明は単に,取り組んでいる問題を解決するために一緒に働いている2人以上の人間の協力の産物である」とし,共同発明者の要件として以下の3点を示した。
(1)発明の着想又は実施化に何らかの重要な方法で貢献する,
(2)クレーム対象の発明に対し,発明全体との比較において質において些細なものではない貢献をする,及び,
(3)真の発明者に対して,よく知られている概念及び/又は現在の技術状態を単に説明する以上のことをする。
 また,A社らは,両博士がクレーム発明の着想につながる特定の実験に参加することができなかったことに基づいて,発明者適格性を否定したが,CAFCは,法律及び判例は,共同発明者が発明概念の全ての側面に寄与する必要がないことを明らかにしているとして,両博士がクレーム発明の概念につながるすべての実験に参加していなくとも,彼らの貢献が減じられるものではないとした。
 さらに,A社らは,両博士の貢献が発明着想時に公知になっていたことを理由に共同発明者ではないと主張した。これに対しCAFCは,以下の様に説明した。複雑な発明においては,発明者適格性は長い期間の中の部分的な貢献に依存してもよく,作業の一部が発明の着想に先んじて公になったからといって,協力者によってなされた真の貢献を割り引く原則的な理由はない。発明の着想以前の開示物は特許性に対し潜在的に危険であることは明らかであるが,そのことをもって,発明が共同でなされたことが無効になるわけではない。
 そしてCAFCは,’474特許の着想にF氏とW氏が貢献していることは経緯から明らかであると認定した。CAFCは,その他のA社らの主張も退け,F氏とW氏を共同発明者とする地裁の判断は誤っていないと判示した。

(東本 健一)

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