専門委員会成果物

IPRの手続き中に提起されなかった新たな理論に基づく決定はAPA違反ではなく,新たな理論を採用する際に当事者への通知は必要ないとした事例

CAFC判決 2020年7月29日
FanDuel, Inc. v. Interactive Games LLC

[経緯]

 FanDuel, Inc.(F社)は,Interactive Games LLC(I社)が保有する遠隔ギャンブルに関する特許8,771,058(’058特許)のクレーム1,6−9,19の無効を主張して,IPRを請願した。
 IPRにおいて,F社は3つの先行技術の組み合わせに基づいてクレーム6は自明であると主張した。I社はF社が提示した先行技術の1つは,’058特許の先行技術としての資格がないと主張した。PTABは,クレーム1,7−9,19は特許性がないと判断したが,クレーム6の特許性を支持する決定を下した。
 PTABの決定は,手続中に特許権者が提起しなかった「新たな理論(3つの先行技術の組み合わせがクレーム6の構成を開示していないこと)」に基づいており,PTABが行政手続法(APA)に違反したとして,F社はCAFCに上訴した。さらに,PTABは自明性に関する申し立てを却下する前に,それを当事者に通知する義務があり,請求人にはそれに応答する機会があると,F社は主張した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABの新たな理論は,IPRの請願書に記載されたF社の主張と証拠の評価に関するものであり,以下の2つの理由から,PTABはAPAに従っていると判断した。第1に,審理開始のために要求される証拠の基準(請求人が成功する合理的な可能性があること)とクレームを無効にするために要求される証拠の基準(証拠に優越性があること)は互いに異なり,請求人が主張した自明性の論拠の充足性について,審理開始時と最終審決時で異なる見解を採用することは許される。第2に,IPRにおける無効性の立証責任は,手続を通じて請求人に残るため,特許権者は,IPRの手続きの中で請求人の主張に対して応答する義務を負わない。そのため,手続中に特許権者が提起しなかった理論をPTABが採用することは許される。
 また,CAFCは,当事者への通知義務について以下のように述べた。自明性の証拠が欠けていることを,最終審決の前に請求人に通知することをAPAは要求しておらず,PTABの評価に反対する機会は最終審決の前には請求人に与えられていない。PTABの評価に反対するタイミングは審決後に与えられており,PTABの評価は再審理や裁判所への上訴において議論される。
 さらにCAFCは,F社が先行技術を組み合わせる動機付けの根拠を提示していないと指摘し,3つの先行技術はF社の自明性に関する申し立ての却下を裏付けていると判断した。
 したがって,PTABはAPAに従っており,また,PTABによる自明性の決定は証拠によって裏付けられていることからCAFCはPTABの決定を支持した。

(五十嵐 梢)

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