専門委員会成果物

IPRでのPTABの最終決定に対する不服申立を扱う管轄権は地裁にはなく,CAFCのみが扱うことができると確認された事例

CAFC判決 2020年8月20日
Security People, Inc. v. Andrei Iancu

[経緯]

 Security People, Inc.(S社)は,2003年に取得した調整可能なボルト付きロッカーロックに関する特許6,655,180(’180特許)を基に,競合企業を特許侵害で提訴した。被告企業の求めに応じ,PTABが’180特許に関してIPRを開始し,’180特許の特許性がないと決定した。その後,S社は特許性に関する争点のみCAFCに上訴し,最高裁まで上訴したが,最終的に最高裁から上訴の申立を却下された。
 S社はその後,IPRにおける特許クレームの取り消し決定の遡及適用は,憲法上の権利(修正第5条適正手続の権利)を侵害している点を主張し,USPTOを地裁に提訴した。しかし地裁は,審判部の決定の審査はCAFCのみが行えるものであり,地裁には本争点の管轄権がないという理由で訴えを却下した。
 S社はこれを不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁によるS社の訴えの却下を支持した。
 S社は控訴審において,PTABの決定に対する審査に関しCAFCにのみ異議申立できるとする地裁の判断には2点の誤りがあると主張した。第1の主張は,「CAFCには憲法上の問題について決定する権限がなく,IPRの決定によって生じた憲法上の問題は,行政手続法(APA)に基づいて地裁で審査可能でなければならない」という点,第2の主張は,「CAFCがPTABの決定を維持し,USPTOが特許クレーム取消の証明書を発行した後にのみ,憲法上の問題に関する異議申立を提起できる」という点であった。
 CAFCは,S社の第1の主張に対して,連邦議会が,CAFCをPTABの最終決定に対する司法審査を行う機関として指定していることから,CAFCが問題なく憲法上の問題を扱うことができるとした。また,「PTABの決定に不服がある場合はCAFCにのみ上訴できる」と特許法141条(c)で規定されていることも挙げ,S社の第1の主張を否定した。
 第2の主張については,IPRにおけるPTABの意思決定プロセスは最終決定の発行により完了し,CAFCへ異議申立が可能となる。特許クレーム取消の証明書の発行は,可能な手続きの期限とは関係がなく,法に基づいて非裁量でPTOが発行するものである。CAFCは,S社の法律の理解に誤りがある,とした。

(辻 耕平)

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