専門委員会成果物

明細書の記載やクレームの規定と矛盾する狭いクレーム解釈は誤りであると判示した事例

CAFC判決 2020年8月27日
Baxalta Inc., et al. v. Genentech, Inc.

[経緯]

 Baxalta Inc.(B社)は,血液凝固障害の血友病の治療に関する特許7,033,590(’590特許)を保有する。B社は,Genentech, Inc.(G社)を特許権侵害で地裁に提訴した。
 地裁は,’590特許の請求項1のクレーム解釈において,明細書中のカラム5を引用し,「抗体」は特定の抗体またはその合成を誘導した抗原にのみ結合する抗体に限定的に解釈されると判断した。G社製品は,’590特許の主張されたクレームを侵害しない判決を下した。
 B社は,地裁のクレーム解釈は誤りであると主張してCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,請求項1において,わかりやすい言葉である「抗体」を,地裁が認定したような特定の態様に限定的に解釈する記載はないとした。
 従属項4や19でさらに限定された「抗体」は,請求項1の地裁のクレーム解釈では範囲外となり矛盾する。G社は,「抗体」は明細書中のカラム5で定義されており,定義と一致しない従属項4や19は無効とすべきと主張した。これに対しCAFCは,カラム5を孤立して引用するのではなく,クレームの解釈では,明細書全体を検討する必要があるとしたうえで,明細書とクレームの残りの文脈を考慮すると,カラム5の引用部は,定義文としてではなく,抗体の一般的な紹介として読めるとした。さらに,このようにカラム5を一般的な記載とするまでもなく,明細書には従属項にある「抗体」の特定の態様やそれらの製造方法に関して開示があり,それらが地裁の解釈に一致しなくなると指摘した。
 従って,開示及びクレームされた態様を除外する地裁のクレーム解釈は誤りである。
 また,地裁は,’590特許の審査の際に拒絶解消のため審査官の提案に応じて行われた補正を参酌してクレーム解釈を行っているが,CAFCは,審査経過は十分な明確さをもつとみなされないのでクレーム解釈には使用すべきではないとした。
 以上のとおり,CAFCは,地裁が狭い解釈を選択した点で誤りであり,明細書の記載とクレームのわかりやすい言葉に矛盾するとした。CAFCによる「抗体」という用語の解釈を示したうえで,用語の正しい解釈と一致するさらなる手続きをするよう,地裁の決定を棄却し,差し戻した。

(藤野 知典)

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