専門委員会成果物

他社が提起したIPRに参加した場合,後訴にて禁反言が適用されるのは当該IPR開始理由と同じ証拠を用いた場合のみであるとした事例

CAFC判決 2020年9月24日
Network-1 Technologies, Inc. v. Hewlett-Packard Company, et al.

[経緯]

 Network-1 Technologies, Inc.(N社)は,Avaya Inc.(A社)およびHewlett-Packard Company(H社)が販売するPoE(Power over Ethernet)スイッチについて,N社の保有特許6,218,930(’930特許)を侵害しているとして地裁に提訴した。
 その後,A社は’930特許について当事者系レビュー(IPR)を請願し,PTABはIPRを開始した(A社IPR)。
 H社は,A社IPRの開始理由とは異なる独自の先行文献に基づき,最初のIPR請願およびA社IPRへの参加申立てを行ったものの,PTABに認められなかった。
 H社が二度目のIPR請願したときには,独自のIPRを請願可能な期限(訴状送達から一年以内)を過ぎていた。しかしPTABは,特許法315条(c)(上記請願可能な期限の例外)の規定により,H社がA社IPRと同じ開始理由に基づき,A社IPRに参加することを認めた。
 その後,地裁での特許侵害訴訟において,H社は,’930特許のクレーム6他が,A社IPRの開始理由には含まれていなかった先行文献等(複数の特許および印刷刊行物)により自明である,との特許無効の申立てを行った。
 上記特許無効主張に対して地裁は,H社がA社IPRに参加していたため,特許法315条(e)(2)の禁反言規定によりその特許無効主張ができない,と法律問題として判断した。
 地裁の上記判断につきH社はCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは特許無効に関する禁反言の地裁判断を以下の理由により棄却し,さらに審理させるために事件を地裁に差し戻した。
 禁反言規定である特許法315条(e)(2)では「当事者が問題のIPR中に提起した,または合理的に提起することが可能であった」理由にのみ適用される旨規定する。
 判例によれば,特許法315条(c)に基づき新たに参加する当事者は,IPR開始理由に含まれない新たな無効理由を提起することは許されていない旨,判示する(Facebook, Inc. v. Windy City Innovations, LLC, 953 F.3d 1313)。
 本件において,A社IPRにてその開始理由にはない先行文献を根拠に特許無効の申立てをH社が提起することは不可能であった。
 上述の事情を鑑みると,H社が地裁にて提起した先行文献は,特許法315条(e)(2)「合理的に提起することが可能であった」等の規定に該当しない。よって,A社IPRには含まれていなかった先行文献を根拠に特許無効の申立てをH社が地裁で提起することについては,禁反言が適用されない。

(三宅 望)

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