専門委員会成果物

上訴審中に特許期間が満了する権利に付き,クレーム解釈基準とクレーム解釈について争われた事例

CAFC判決 2020年10月13日
Immunex Corporation v. Sanofi-Aventis U.S. LLC, et al.

[経緯]

 Immunex Corporation(I社)は,特許8,679,487号(’487特許)の特許権者である。’487特許は,単離された「ヒト抗体」を対象としている。
 Sanofi-Aventis U.S. LLC(S社)が,’487特許の全クレームに対してIPRを請願したところ,審判部は2件の引例の組み合わせに基づき,自明性の理由により全クレームが無効であると決定した。ここで,第2の引例は,ネズミ科由来の抗体を「ヒト化」することを教示している。審判部は,BRI基準でクレームを解釈し,この「ヒト化」抗体は,’487特許クレーム中の「ヒト抗体」に該当すると結論した。
 I社は,審判部の決定に対して上訴し,ターミナルディスクレーマを提出した。I社は,クレーム解釈はPhillips基準でされるべきであり,それによれば「ヒト抗体」とは「完全なヒト」を指すものであるとし,審判部によるクレーム解釈に異議を唱えた。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,上訴審中に特許期間が満了しても必ずしもPhillips基準に基づいてクレームが解釈されるものではないことを示した。I社のターミナルディスクレーマは,BRI基準でのクレーム解釈に基づく上訴趣意説明後に提出されたものであり,BRI基準でクレーム解釈を行うことが適切であるとした。それにより,’487特許における「ヒト抗体」は「ヒト化」を含む「部分的にヒト」であってもよいと判断し,I社の請求を退けた。
 CAFCはまずクレーム1の文言自体を検討し,「ヒト抗体」を完全にヒトであるものに限定するような記載は存在しないと判断した。続いて明細書を参照し,「ヒト抗体」は部分的なヒト抗体及び完全なヒト抗体の両方を包含する概念であると判断した。更に,審査経過を検討し,’487特許と同一ファミリーの別の特許出願で,「完全にヒト」と「ヒト」との両方の用語が同一のクレーム中で使用されていたことを指摘した。また,’487特許の審査中になされた補正は,「ヒト抗体」を完全なヒトに限定する意図はなかったと判断された。従って,審査経緯からも審判部の決定を支持すると結論した。最後に,外的証拠を検討した。外的証拠が役立つのは,内的証拠が曖昧であり更なる指針が必要な場合であると示した上,I社が提出した外的証拠のうち,内的証拠と矛盾する点については,内的証拠が優先する,と判断した。
 以上により,CAFCは,「’487特許は自明性を理由として無効である」とした審判部の決定を支持した。

(大橋 亜沙美)

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