専門委員会成果物

IPRにおいて,自明性主張における組合せの動機づけの証明責任を,証拠の優越の原則(preponderance of the evidence)に基づいて控訴人に課した事例

CAFC判決 2020年10月15日
ST. JUDE MEDICAL, LLC v. SNYDERS HEART VALVE LLC

[経緯]

 ST. JUDE MEDICAL, LLC(J社)は,SNYDERS HEART VALVE LLC(S社)が保有する人工心臓弁,および弁を挿入するためのシステムに関する特許6,540,782(’782特許)のクレームの無効を主張して,IPR2件(IPR2018-00105(以下IPR-105)及びIPR2018-00106(以下IPR-106))を請願した。
 J社はIPR-105において,クレーム1,2,4-8,28が,特許5,957,949(以下Leonhardt)に基づいて新規性無し,また全クレームがLeonhardt及び特許5,411,552(以下Anderson)等に基づいて自明であると主張したが,PTABはこれを否定した。またJ社はIPR-106において,クレーム1,2,6,8,28が,特許5,855,601(以下Bessler)に基づいて新規性無し,また17,27,30以外のクレームがBessler及び特許4,339,831(以下Johnson)等に基づいて自明であると主張した。PTABはクレーム1,2,6,8のみ,Besslerに基づき新規性無しであることを認定したが,その他のクレームは特許性を支持すると決定した。
 J社はCAFCに控訴し,IPR-105は,Leonhardtに基づく新規性無しの主張の却下が誤りであること,クレーム文言“band”の解釈で誤りがあったことを主張した。IPR-106では,Besslerにはクレーム28の“manipulator”の限定を無効にできる証拠が無いと認定したことが誤りであると主張した。またクレームのBesslerとJohnson等に基づく自明の申立ての却下は誤りであると主張した。
 一方,S社も,IPR-106についてBesslerによるクレーム1,2,6,8の新規性無しの認定が誤りである旨を主張する交差上訴(cross-appeal)を行った。

[CAFCの判断]

 CAFCは以下の判断を行い,PTABの決定を維持し,控訴人の請求を棄却した。
 CAFCは,IPR-105のPTABの決定を支持し特許維持とした。またIPR-106についてはクレーム1,2,6,8のBesslerによる新規性無しの判断を覆して特許維持とし,さらにJ社によるクレーム28の新規性無しの主張を否定。PTABによる自明性の否定は支持した。
 IPR-105については,PTABの判断は,クレーム文言を,暗黙の解釈を適用して限定した解釈をしているためにLeonhardtで無効化できなくなっており,誤りであるとするJ社の主張について,PTABの暗黙の解釈はもともとJ社の提案した文言を解釈に採用している上,J社もIPR-105内においてPTABの認定に根拠がないという主張をしていなかった,という理由で却下した。
 IPR-106については,Besslerによるクレーム1,2,6,8の新規性無しというPTAB認定に対する,S社による交差上訴(cross-appeal)は,Besslerがクレームの要件を満たしていないというS社による明確な理由の主張に対してPTABが答えていなかったため,却下し特許維持とした。また,Bessler及び,Johnson等による組合せに基づいて,自明性を主張する際に提案した,特定の組み合わせを行う動機付けを,適切に行わなかったことについて,特許性判断のための証拠の優越の原則(preponderance of the evidence)に基づき,無効化主張の根拠を証明するのはJ社の責任であり,PTABの判断は正しいとした。

(島崎 武嗣)

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