専門委員会成果物

異なる分野の引例が自明性の引例となるか否かは,発明と引例とが関与している問題を特定,比較し,合理的関連性の有無を判断する必要があると示した事例

CAFC判決 2020年11月9日
Donner Technology, LLC v. Pro Stage Gear, LLC

[経緯]

 Donner Technology, LLC(D社)は,Pro Stage Gear, LLC(P社)が保有するギターエフェクターの取り付け板に関する特許6,459,023(’023特許)に対しIPRを申し立て,’023特許にクレームされた構造と類似した構造を描写する継電器に関する特許3,504,311(Mullen)の教示に基づき自明であるとして,’023特許の無効を訴えた。PTABは,D社はMullenが’023特許の類似技術であることを証明しなかったとして,D社の訴えを拒絶した。D社は,これを不服としてCAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABが結論に至る過程で誤りがあったとするD社の主張に同意した。
 自明性の引例となる先行技術(prior art)の範囲は,全ての類似技術(analogous art)を含む。類似技術とは,(1)技術が,示された課題にかかわらず発明と同じ試みの分野にあるもの,(2)引例が発明の分野にない場合には,引例が,発明者が関与している特定の問題に合理的に関連するもの,の何れかに該当するものと定義される。本件において,Mullenが’023特許と同じ試みの分野内にないことには,争いがない。したがって,Mullenが,’023特許の発明者が関与している特定の問題に合理的に関連しているかどうかが論点になる。
 引例が,発明者が関与している特定の問題に合理的に関連するか否かを判断する際には,双方が関連する問題を特定して比較する必要がある。
 CAFCは,D社が専門家証言や証拠を提出してMullenが類似技術であることを主張していたにも関わらず,D社の主張と証拠をPTABが考慮したのかはっきりしないと述べた。次に,CAFCは,PTABがMullenと’023特許に関し上記特定と比較を適切に行っていない,と指摘した。例えば,’023特許の目的を「ペダル板にギターエフェクターを取り付けること」と認定したPTABの判断が誤っていると指摘した。さらに,’023特許の目的と解決される課題のPTABの認定は特許の試みの分野と強く結び付けられているため,その分野外の引例の考慮を事実上除外しているのであろう,と指摘した。
 また,引例と発明との比較は,「試みの分野外の引例の教示に目を向けることを検討している当業者」の視点で行う必要がある。CAFCは,PTABが合理的関連性の分析において上記要求を無視していると指摘した。さらに,PTABがMullenの関連する問題を特定しなかったことを指摘し,PTABはMullenと’023特許が関与している問題を特定し比較することを怠っており,適切な判断手順を適用していないとした。
 CAFCは,Mullenが類似技術であるか否かを評価する際にPTABが誤った基準を適用したと結論付け,PTABの決定を破棄し,上記意見に調和した更なる審理を行うようPTABに差し戻した。

(谷元 史明)

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