専門委員会成果物

明細書中に記載された製造方法が製品クレームの本質的な部分か否かが争われた事例

CAFC判決 2020年11月19日
VECTURA Ltd. v. GLAXOSMITHKLINE LLC, et al.

[経緯]

 Vectura Ltd. (V社)はドライパウダー吸入器等で用いられる肺内投与薬品の複合活性粒子に関する特許8,303,991(’991特許)を保有する。V社は,GlaxoSmithKline LLC(G社)の製品が’991特許を侵害したとして地裁に提訴した。
 G社は’991特許を侵害しており’991特許は無効ではないと,地裁は判決した。さらに,公判後のG社による侵害性と損害賠償に関する再審理申立,および非侵害のJMOLを求める申立を地裁は却下した。
 G社は地裁の決定を不服としてCAFCへ控訴した。その際,地裁による「複合活性粒子」の文言解釈は誤っているとして,G社は侵害性の再審理を求めることができると主張した。上記「複合活性粒子」を’991の明細書中に記載される製粉方法によって製造されることを条件とするように文言解釈すべきであったとG社は主張した。  

[CAFCの判断]

 地裁の「複合活性粒子」に関する文言解釈が誤っている根拠として内的証拠をG社は提示した。そして,明細書中の複数箇所に記載されている「高エネルギー製粉方法」が’991特許発明における複合活性粒子の本質的部分であるとG社は主張した。
 CAFCはG社の主張を認めなかった。CAFCの解釈は以下の通りである。本件はContinental Circuits LLC v. Intel Corp, (915 F. 3d 788(Fed. Cir. 2019))とAndersen Corp. v. Fiber Composites, LLC (447 F. 3d 1361 (Fed. Cir. 2007))との間に位置する。いずれの判例においても,「プロセスステップがクレームされた発明の本質的な部分であることを特許権者が明確にした場合,プロセスステップは製品クレームの一部として扱ってよい」ことが認定されている。製品を製造するプロセスに関する明細書中の記載に関し,Andersen事件では「選択肢ではなく要件を示す言葉」を用いていたのに対し,Continental判決では明細書中の記載が「単に使用の選択肢を示したに過ぎない」ことが判示されている。’991特許では,明細書中で単なる好ましいプロセスである事を示す複数の記載だけでなく,高エネルギー製粉方法が必要とされることを示す記載,さらに,他の実施例を否定する記載がある。しかし,Thorner v. Sony Comput. Entm’t Am. LLC (669 F.3d 1362. 1366 (Fed. Cir. 2012))判決では,「クレーム文言の一般的な意味に含まれる特定の実施例の単なる否定だけでは,明確な放棄といえるレベルまでには至らない」理由から,他の実施例を否定する記載は決定的ではないと判示されている。
 したがって,’991特許中の好ましいプロセスである事を示す複数の記載は,単なる使用の選択肢を示したContinental事件の明細書の記載に近い。
 以上より,高エネルギー製粉方法は’991特許発明の本質的部分ではないとCAFCは結論づけた。よって,CAFCはG社の主張を認めず,地裁の文言解釈を支持した。

(早川 将史)

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