専門委員会成果物

既に審理が開始されたIPRに参加した当事者による新たな無効理由に対して禁反言は適用されないとした事例

CAFC判決 2020年11月20日
NETWORK-1 TECHNOLOGIES, INC. v. HEWLETT-PACKARD COMPANY, et al.

[経緯]

 Network-1 Technologies, Inc.(N社)は,イーサネットを介してリモート機器に電力を供給する装置と方法に関する特許6,218,930(’930特許)を保有する。N社は,’930特許を侵害したとしてHewlett-Packard Company(H社)およびAvaya Inc. (A社)らを地裁に提訴した。
 A社は,’930特許に対しIPRを請願し,PTABは新規性及び進歩性の理由による審理を開始した。一方,H社はA社が請願したIPRと同じ理由のみを含むIPRの請願および上記IPRへの参加申立を提出した。PTABはH社の請願を認め,H社は上記IPRに当事者として参加した。PTABは,IPRの対象となった請求項は特許性を有するとして最終決定を下した。
 その後,地裁での訴訟が進み,H社は上記IPRには含まれていなかった複数の特許などにより,’930特許は自明であったと主張した。陪審員は,’930特許が無効であり,侵害していないと判断した。N社は陪審員の評決を受けて,特許有効性の問題に関するjudgment as a matter of law(JMOL)の申立を提出した。地裁はこのJMOLに関する申立を認めた。しかし,地裁は,H社は上記IPRの参加当事者であったことを考慮し,特許法315条に基づく禁反言により,H社の特許有効性に関して新たな判決はしなかった。
 H社は,特許有効性に関する地裁のJMOLついて控訴し,地裁が特許法315条に基づく禁反言を適用したことは誤りであると主張した。  

[CAFCの判断]

 H社がA社の請願したIPRに参加した結果として,特定の無効主張を提起することに対して禁反言が適用されるべきである,と結論付けた地裁におけるJMOLに関する決定に誤りがあったとするH社の主張にCAFCは同意した。
 特許法315条の禁反言が適用されるのは,当事者がIPR中に「提起した,または合理的に提起することができた」理由に制限される。H社は特許法315条の時間的制約に関する例外を適用して,既に審理が開始された上記IPRに参加したため,新たな無効理由を提起することができなかった。したがって,地裁で提起したH社の新たな無効理由は,H社が上記IPRで合理的に提起することができなかったものであるから,特許法315条の禁反言の対象とはならないとCAFCは判断した。
 本修正判決では,JMOLに関し地裁が採用していない’930特許の有効性に関する複数の根拠がN社により主張されていたが,いずれもCAFCは考慮しない事を強調している。
 以上より,H社は特許法315条に基づく禁反言によって,新たな無効理由を地裁で提起することは禁じられないとCAFCは結論付けて地裁の決定を棄却し差し戻した。

(安田 理人)

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