専門委員会成果物

欧州特許庁,人工知能「DABUS」を発明者とする特許出願を拒絶

 欧州特許庁(EPO)は,「connectionist AI」の一種で「DABUS」と呼ばれる機械を発明者として指定した 2件の欧州特許出願(EP18275163,EP18275174)を欧州特許条約(EPC)81条及び同規則19(1)の方式要件を 満たさないとして拒絶の決定を行っていたが,2020年1月28日付ニュースリリースにて,その拒絶決定の理由を 公表した。
 EPC81条及び同規則19(1)は欧州特許出願の願書に発明者を記載し,出願人が発明者でない場合,願書とは 別に,発明者を指定した書類を提出するよう求めている。しかしながら,出願人は当初,発明者に関する書類を提出しておらず,方式要件違反の通知が出された。これに対し,出願人はDABUSと呼ばれる機械を発明者として指定し,出願人はDABUSの所有者として創出された知的財産権を譲渡されたと主張していた。
 2019年11月25日に非公開の口頭審理が2件の出願を併合して行われた。
 当該決定において,EPO審査部は以下のように述べている。
 モノに与えられる名前と自然人の名前は同等ではない。自然人に与えられる名前は個人を同定するだけでなく,の名前によって権利を行使できるのに対し,モノの名前によって行使できる権利はない。
 欧州特許制度の法的枠組みの解釈は欧州特許において指定される発明者は自然人でなければならないとする 結論(例えば,EPC58条(特許出願をする権利))を導くものと認められ,EPCの立法経緯もそれを示している。 EPO審判部が自然人以外の存在(entity)を発明者として認めるか否かについて判断を下したことはないが,それを以って自然人以外の存在をEPC下の発明者として受け入れることにはならない。
 また,発明者は自然人であると理解するのは国際基準であると考えられ,各国裁判所も同様の決定を行って おり,中国,日本,韓国や米国の特許庁もまたこのアプローチに従っている。発明者は発明を創出した自然人 あると規定しているEPC締約国がある一方,AIシステムや機械を発明者と認めた各国法令はこれまで存在しない。
 さらに,発明者の指定は,それが一連の法的結論をもたらすことから必須のものであり,特に指定された 発明者が適法な者で,その地位に関連する権利の恩恵を受けることができる者であることを保証するもので ある。これらの権利を行使するためには,発明者はAIシステムや機械が享受しないlegal personalityを 持たなければならない。
 最後に,機械に名前を与えるだけではEPCの方式要件を満たすには不十分であると述べている。
 本決定に対し,出願人は拒絶決定の日から2ヶ月以内にEPO審判部に審判請求することができる。
 なお,出願人は前記2件の欧州特許出願と同日に同内容の特許出願(GB1816909,GB 1818161)を英国特許庁 (UKIPO)に直接出願しているが,UKIPOによりDABUSは英国特許法第7条及び第13条に規定された人ではないため発明者と認められないとする決定がなされた。それに対し,出願人は特許裁判所(Patent Court)に抗告を 行っている。

EPOニュース(2019年12月20日,2020年1月28日)

https://www.epo.org/news-issues/news/2019/20191220.html

https://www.epo.org/news-issues/news/2020/20200128.html

(参照日:2020年2月5日)    

(冨野 美奈子)

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