専門委員会成果物

特許制度への新たな識見:EPO学術研究プログラムの最初の研究結果が公開

 欧州特許庁(EPO)は,学術研究プログラムの資金によって進められた6つの研究報告書を公開した。
 この研究では,特許データを使用してイノベーションのための資金調達,知識移転,貿易,市場における発明の追跡などが調査された。2017年に6つのプロジェクトに対して合計30万ユーロの助成金が授与され,各プロジェク トの研究者は,先月ミュンヘンで開催されたEPOが主催するワークショップで最終結果を発表した。
 プログラムの科学委員会の議長を務めるEPOチーフエコノミストYann Ménière氏は,次のように述べている。 「産業,社会,経済に対する特許制度の影響は,政策立案者に重要な疑問を提起する。注意深く,しっかりと 専門家同士で評価された学術研究は,その答えを得るための最良の手段となり得る。これらの学術研究の新しい成果からIPエコシステムとイノベーションサイクルの機能のさまざまな側面において得られる識見は,EPO,他の研究者,イノベーターにも非常に役立つものとなる。」
 EPOは,2017年に学術研究プログラムを開始し,欧州経済における特許の役割に関するさらなる研究を奨励し,研究結果の共有を促している。このプログラムは,たとえば世界規模の特許データベースEspacenetを通じた特許情報の普及や,PATSTATなどのツールを通じた特許分析の促進におけるEPOの役割を補完している。
 アカデミアのEPOプログラムエリアマネージャーを務めるGiovanna Oddo氏は,次のように述べている。 「知識の共有はEPOの文化の根幹である。このため,我々と大学との連携は,知的財産研究コミュニティを強化するのと同様に非常に重要である。このプログラムは,破壊的な技術の出現と市場の成長に伴い,知的財産とイノベーションにおける多くの挑戦的な問題を検討する研究者達の明るいコミュニティを育成するものである。」
 2017年に行われた募集に対して13の国から提出された66件の中から,6つの研究トピックスが採択された。 現在EPOウェブサイトに研究の結果が公開されているプロジェクトおよび概要は,以下の通りである。
  • 「輸入のイノベーションおよび技術的内容」
     Igor Bagayev,ダブリン大学
     (概要)高度な技術を備えた輸入品が,輸入先の地域における技術的知識の普及およびイノベーションの促進に与える影響と,貿易を担う多国籍企業の役割を調査した。
  • 「製品と特許との対応関係からの識見」
     Gaétan de Rassenfosse,ローザンヌ工科大学
     (概要)欧州企業による技術革新によって生まれた発明の成果が資金調達に与える影響を調査,分析した。
  • 「欧州における資金イノベーション」
     David Heller,ゲーテ大学フランクフルト
     (概要)環境政策がイノベーション活動全般,特に気候変動緩和技術(CCMT)の開発に与える影響を,CCMT(および非CCMT)に関連する特許を用いて調査した。
  • 「CAPPA−弁理士のキャリアパス」
     Lutz Maicher,フリードリヒ・シラー大学イエナ
     (概要)過去10年間に欧州特許庁(EPO)に対して代理人を務めた全ての弁理士のキャリアパスを含む,包括的かつ匿名のデータセットを作成し,提供した。
  • 「特許における製品およびプロセスの発明から得た知識の波及および企業業績への影響」
     Martin Worter,スイス経済研究所,ETHチューリッヒ
     (概要)特許評価と特許審査プロセスに対する理解を深めるために,データサイエンスツールを用いて データベースを構築した。
  • 「気候変動緩和技術および環境規制におけるイノベーション」
     Julie Lochard,パリ・エスト・クレテイユ大学
     (概要)製品および製品の製造プロセスに関する知識の蓄積が新たな特許出願および企業の生産性に与える影響を,計量経済学的手法を用いて調査した。
 なお,本プログラムの次回の募集は2020年春に公開される。

(参考情報)

1)EPOニュース(2020年1月23日)
https://www.epo.org/news-issues/news/2020/20200123.html

2)学術研究プログラム(Academic Research Programme)(2019年12月6日)
https://www.epo.org/learning-events/materials/academic-research-programme.html

(参照日:2020年2月7日)    

(小野寺 正徳)

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