専門委員会成果物

ドイツ憲法裁判所,欧州統一特許裁判所の承認決議に対して無効判決

 ドイツ憲法裁判所は,欧州統一特許裁判所(UPC)に対して主権を付与するものである,欧州統一特許裁判所協定(UPCA)に関する承認法 (以下,「承認法」)の決議は無効であるとする判決を出した。
 承認法は,超国家的な裁判所に対して,司法機能を与え,この裁判所が特定の法的紛争に対して決定する独占的な権限を有することを 定めるものである。一方,UPCAは,欧州単一特許に関する紛争について,加盟国共通の裁判所として欧州統一特許裁判所を設立することを規定する。欧州単一特許に関しては,広範な紛争に対する独占的権限が欧州統一特許裁判所に付与される。独占的権限は,主に特許侵害に対する訴訟,特許の有効性に関する紛争,および欧州特許庁の決定に対する特定の訴訟で構成されている。
 ドイツ憲法裁判所は,承認法は国家主権を国際裁判所に移譲したものであり,次の理由により,ドイツ憲法を実質的に変更するものになると判断した。
 ドイツの特許裁判所システムに関係なく,ドイツ裁判所に取って代わる司法機能を付与することは,主権の付与を規定する基本法が実質的に改正されることを意味する。国際裁判所に対する司法機能の付与は,ドイツ裁判所の管轄権の割り当てを変更し,この点で実質的な ドイツ憲法の改正を構成する。更に,ドイツの裁判所が権利の保護を保証できなくなることを考えると,国際裁判所に対する司法権の付与は,基本法の基本的な権利だけでなく,権限の分離の具体的な設計にも影響を与えることとなる。経済的に重要な法的問題に関する加盟国の管轄権は,欧州統一裁判所の専属管轄権になる。UPCAに基づき,ドイツ憲法によって定められたドイツの裁判所システムは,独自の階層を持つ別の裁判所によって修正されることとなる。
 ドイツ憲法の改正にはドイツ連邦議会の議員の3分の2以上の賛成を要件とする。上記要件に違反してなされた国際法上の義務は,ドイツ国民を超国家的な公的権限の影響に晒すものであり,基本的権利と同等の権利を侵害する。また,ドイツ国民はドイツ憲法の改正に上記要件を必要とすることを主張することができる。これは,国際法に基づいて別の主体によって付与された権限は一般的に「行方不明」 になり,立法者によって容易に取り戻すことができないことが理由である。しかし,この承認法は,ドイツ憲法の改正に必要となるドイツ連邦議会の議員の3分の2以上の賛成によって採択されなかった。3分の2の賛成を達成できない場合,法律を制定することができない。
 決議にかけられた承認法の草案は,連邦議会により全会一致で採択されたが,出席している連邦議会の約35人のメンバーだけで採択されたものであった。当時の議席数は630であった。このため,必要な定足数を満たされず,連邦議会の議長も承認法が適格な多数派によって採択されたと宣言しなかった。
 連邦憲法裁判所第2部は,次のように述べている。民主的な手段によってヨーロッパ統合のプロセスに影響を与えるための国民の権利を保護する必要がある。原則として,主権移譲は,ドイツ基本法によって認められた,主権が付与される方法でのみなされることを必要とする。 これは国民の権利である。これに違反して採択された国際条約の承認行為は,EUまたはEUに補足的または密接に結びついているその他の国際 機関による公的権限の行使に対して,民主的な正当性を提供することはできない。

ドイツ連邦憲法裁判所プレスリリース(2020年3月20日)
https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/EN/2020/bvg20-020.html

(参照日:2020年4月2日)

(大庭 弘貴)

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