専門委員会成果物

欧州特許庁−日本特許庁間の優先権書類交換についての欧州特許庁通知

  1. 概要
     欧州特許庁(EPO)は,2018年11月1日より,先の特許出願(優先権書類)の認証済コピーを交換するためにWIPOデジタルアクセスサービス(DAS)に参加している。DASでは,EPOと日本特許庁(JPO)の間で優先権書類が電子的に交換される。二庁はこの度,両者間の既存の優先権書類交換契約(PDX契約)を2021年12月31日で終了し,DASを唯一の電子的な優先権書類交換ツールとして使用することに合意した。
     PDX契約において,EPOとJPOは,欧州特許条約(EPC),日本特許法又は日本実用新案法に基づいて優先権主張された特許出願,又は日本実用新案出願の認証済コピーを自動的に転送する。しかし,この自動的な交換は,特許協力条約(PCT)に基づく国際出願において主張された優先権には拡張されていなかった。
  2. 実務への影響
     これまで,JPOに提出された先の特許出願又は実用新案出願から優先権が主張された場合,もしDAS経由で優先権書類を取得できなかったか又は出願人がDAS経由での取得を要求しなかったとき,EPOは自動的かつ無料で,優先権が主張された先の出願のコピーを欧州特許出願の包袋に含め,都度出願人に通知していた。
     PDX契約の終了により,EPOは,日本語の優先権書類がDAS経由で取得できなかったか又は出願人がDAS経由での取得を要求しなかった場合であっても,もはや日本語の優先権書類を包袋に自動的に含めることはなくなる。これは,2020年7月1日以降にEPOに提出された欧州特許出願,及び日本特許出願又は実用新案出願から優先権を主張し,2020年7月1日以降に欧州段階に入るEuro-PCT出願,並びに日本特許出願又は実用新案出願から優先権を主張し,2021年12月31日までに必要な優先権書類を出願の包袋に含めることができなかった欧州特許出願又はEuro-PCT出願に適用される。
     EPOは,優先権が主張された先の日本出願のコピーがDAS経由で取得できない場合,出願人に余裕を持って通知する。このような場合や出願人がDAS経由での優先権書類の取得を要求しない場合でも,出願人は,EPC規則53(1)に従い,後からコピーを提出する機会を与えられる。
     PDX契約が終了しても,DAS経由の優先権書類の交換には影響はなく,DASは,日本出願を含め,DASに参加する国における先の出願から優先権を主張するすべての出願で,引き続き利用可能である。
     この契約の終了は,EPOとIP5の他の三庁,つまり米国特許商標庁(USPTO),韓国知的財産庁(KIPO),及び中国国家知識産権局(CNIPA)との間の電子的な優先権書類の交換にも影響しない。言い換えると,EPOは引き続き,DAS経由で優先権書類を取得できない場合又は出願人がDAS経由での取得を要求しない場合に,優先権が主張されている先のUSPTO,KIPO,又はCNIPA出願のコピーを自動的かつ無料で出願の包袋に含める。
     この進展に照らして,EPO長官は,優先権書類の提出に関し,2018年10月18日以前の決定に取って代わる新しい決定を発行した(2020年3月31日)。この新しい決定は,EPO−JPO間の優先権書類の自動交換の終了を反映している。

EPO公式ジャーナル(2020年5月29日)
https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/official-journal/2020/05/a58.html
https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/official-journal/2020/05/a57.html

(参照日:2020年6月4日)    

(奥山 祐美子)

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