専門委員会成果物

EPO拡大審判部が植物および動物の特許性の例外について意見を公表

 2020年5月14日,欧州特許庁(EPO)拡大審判部は,本質的に生物学的な方法によってのみ得られる植物および動物は特許性がないとの結論を公表した。
 EPC条約第53条(b)は,植物又は動物の品種,又は植物又は動物の生産のための本質的に生物学的な方法は欧州特許の対象外であることを規定している。これに対し,2017年7月1日に発効した同条約施行規則28(2)は,本質的に生物学的な方法により得られた植物又は動物を欧州特許の対象外とすることを規定している。
 同規則制定前は,条約第53条(b)に基づく植物又は動物の生産のための本質的に生物学的な方法についての非特許性は,その方法により得られた植物又は動物には拡張されないものとされ,2015年の拡大審判部の判断では,条約第53条(b)に基づき,審決G2/12とG2/13において当該植物又は動物は特許の対象外とはならない旨の判断がなされている。
 新規則28(2)の発効後である2018年に,技術審判部は条約第164条(2)の規定(条約とその実施規則とが抵触する場合には条約が優先する)に基づき,新規則28(2)は条約第53条(b)の解釈に影響せず,審決G2/12およびG2/13に従う旨の判断をした(審決T1063/18)。
 このような経緯を踏まえ,2019年にEPO長官は拡大審判部に対し,条約第53条(b)の解釈に関する法的見解とG/12およびG/13の審決後の状況や,特に新規則28(2)の観点を踏まえた法的な質問を付託した。
 今回の拡大審判部の意見はこの質問に回答するものである。拡大審判部では,従来の解釈は条約第53条(b)の範囲についての従来の結果については,伝統的な(文法的,体系的,目的論的,歴史的)解釈方法として認めた上で,既定の意味は時間の経過とともに変化,あるいは進化する可能性があることから,法的規定への解釈は決して不変のものではないものと結論付けた。
 この動的な解釈を採用し,拡大審判部は審決G2/12およびG2/13における条約第53条(b)EPCの以前の解釈を放棄している。
 そして,新規則28(2)の導入後は,条約第53条(b)は,クレームされた物が本質的に生物学的な方法により得られたものであるか,クレームされた方法の特徴が本質的に生物学的な方法を定義するものである場合,その方法により得られた植物,植物素材または動物は特許性から除外されると解釈される,とした。
 法的安定性および特許権者と出願人の正当な利益を確保するために,拡大審判部は,本意見(G3/19)で与えられた条約第53条(b)の新しい解釈は,そのようなクレームを含む2017年7月1日より前に付与された欧州特許や,2017年7月1日より前に出願され,係属中の欧州特許出願に対し遡及的に適用しないと決定している。
 EPOはこの拡大審判部の意見に従い,関係者と緊密に協議しつつ審査実務を進めること,および付託により留保されていた審査や異議申立の手続きが徐々に再開される旨,発表している。

EPO拡大審判部のプレス発表(2020年5月14日)
https://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/communications/2020/20200514.html

EPOニュース(2020年5月14日)
https://www.epo.org/news-events/news/2020/20200514a.html

参考情報
拡大審判部意見G3/19
http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/44CCAF7944B9BF42C12585680031505A/$File/G_3-19_opinion_EBoA_20200514_en.pdf

(参照日:2020年6月25日)

(今井 周一郎)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.