専門委員会成果物

欧州特許庁が3Dプリンティング技術の特許出願に関するレポートを発表

 欧州特許庁(EPO)は,3Dプリンティングとしても知られる付加製造技術(additive manufacturing,以下AM)の欧州特許出願(以下,出願)に関するレポートを2020年7月13日に発表した。本レポートでは,3Dプリンティングとしても知られるAMの出願について,その出願件数,地理的起源,産業分野,出願人等の観点で分析されている。

【出願件数と地理的起源】
 2018年のAMの出願件数は4,072件となり,2010年の828件から,4.9倍に増加した。特に,2015年から2018年まで,年平均で36%増加しており,同期間の出願の年平均増加率3.5%の10倍以上の増加率となっている。
 2000年から2018年の間に出願された全てのAM技術に関する出願の発明者のうち45.6%をEPC加盟国が占めている。EPC加盟国の中では,ドイツが最も多く,全体の18.7%を占め,次いで英国4.8%,フランス4.4%,オランダ3.7%,スイス3.6%の順になっている。全世界で見ると,米国が34.7%で最多となっており,日本11.8%も重要なイノベーションの中心地であることが分かる。

【産業分野別の出願件数】
 本レポートのデータは,AM技術の影響が様々な産業に広がっていることを示している。産業分野別では,2010年以降,健康分野でのAMの利用に関する出願(4,018件)が最多となっている。次いで,エネルギー分野(2,001件)及び輸送分野(961件)の出願件数が多い。
 その他,工作機械,電子機器,建築,消費材,食品分野でも急速な増加が見られた。

【出願人別の出願件数】
 産業分野の多様性は,上位出願人の分析結果にも反映されている。上位25の出願人による出願(6,548件)が,2010年から2018年までの全AM出願の約30%を占めている。
 首位はGeneral Electric(875件)であり,United Technologies(810件),Siemens(645件)がそれに続いている。
 上位25の出願人は,Stratasys(イスラエル),3D Systems(米国),EOS(ドイツ)のような純粋な3Dプリンティングの専門企業だけではなく,輸送,化学,医薬品,情報技術,電子機器,画像処理,消費材のような多くの異なる技術分野からの非常に多様なプレーヤーで構成されている。
 上位25の出願人の内,11社を米国が占め,8社を欧州が占めている。日本企業では,富士フイルム(222件),キヤノン(193件),リコー(123件)の3社がランクインしている。
 本レポートでは,産業分野別の上位出願人も明らかにされている。
材料分野ではBASF(ドイツ),応用分野ではUnited Technologies(米国),デジタル分野ではHP(米国),機械・製造分野ではGeneral Electric(米国)がそれぞれ首位となっている。また,上記4分野のうち材料分野を除いた全ての分野においてSiemens(ドイツ)が上位5位以内に現れている。消費材分野では,スポーツ用品メーカであるNike(米国)が首位である他,Adidas(ドイツ)やSwatchグループ(スイス)がランクインしている。健康分野では,Johnson & Johnson(米国)が首位となっている。

【小規模プレーヤーの重要な貢献】  AM技術における3件の内の2件の特許出願が非常に規模の大きな企業によってなされている一方で,従業員数15人から1,000人の企業が全出願の10%(2,148件),個人発明家及び従業員数が15人未満の小企業が全出願の12%(2,584件),大学,病院,公的研究機関が全出願の11%(2,448件)を占め,これら3つの集団がAMイノベーションエコシステムにおける重要な当事者となっていることも明らかになった。

EPOニュースリリース
https://www.epo.org/news-events/news/2020/20200713.html
EPO Patent and additive manufacturing
http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/C2F0871212671851C125859F0040BCCA/$FILE/additive_manufacturing_study_en.pdf
(参照日:2020年8月25日)

(栁本 昭)

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