専門委員会成果物

WIPOが世界中の知財判決に関する無料データベースを提供

 2020年9月24日,世界知的所有権機関(WIPO)は世界中の主要知財判決を無料で入手できる新たなデータベースとして,「WIPO Lex-Judgments」1)の提供を公表した2)。WIPO Lex-Judgmentsは,判決情報へのアクセスを促進することにより,共通の知財問題に対する各国毎のアプローチの集約・対比に貢献できるとしている。
 また,WIPO Lex-Judgmentsでは,参加国の知財紛争に対応するための司法構造情報が提供されている。これによりユーザーは,準司法的な機能を果たす行政機関,一般裁判所,専門裁判所といった連続的な司法構造と,知財紛争の技術的性質に対応する多様な特徴を理解できるとしている。

【WIPO Lex-Judgmentsの目的】
 知財紛争のグローバル化と,各国の裁判官同士で意見交換が求められるようになった状況を受け,WIPOは2018年に知財の司法行政に新たな焦点を当てた。この活動は,WIPO司法機関によってまとめられ,各国の裁判官が直面する共通の課題についての経験を共有し,対象を絞った能力開発を行い,知財と裁判所に関する情報の入手を容易にすることを目的としている。
 WIPO LEX-Judgmentsは,ラテンアメリカ,カリブ海地域(LAC地域),スペインを始めとした多数の加盟国からのニーズである,知財に関する国際的な司法制度と判決へのアクセス改善に,直接的に対応したものである。

【WIPO Lex-Judgmentsの機能】
 WIPO LEX-Judgmentsでは,影響力または先例的価値の大きい主要判決として,加盟国が選択した判決にアクセスすることができる。データベースは,索引がある全判決について書誌事項を収集しており,検索も可能である。書誌事項として,現地語による判決全文に加え,主題,発行元,訴訟の種類,関連法規,キーワード,判決日,要約が含まれる。WIPO LEX-JudgmentsはWIPOのポータルサイトであるWIPO Lexと連携しており,判決中で言及される国内法規や国際条約について,WIPO Lexに格納された情報の参照を可能にしている。
 さらに,各加盟国のページでは,知的財産権紛争の司法構造の概要が掲載されており,行政および司法手続の特徴,知財訴訟の統計,および国内判決データベースへのリンクが提供されている。
 また,WIPO Lex-Judgmentsは,英語,アラビア語,中国語,フランス語,ロシア語,スペイン語で利用可能であり,判決文の機械翻訳も可能となっている。
 WIPOは提供開始時点で,10ヶ国から400以上の判決が格納されていると公表している。2020年10月時点では,オーストラリア,ブラジル,チリ,中国,コスタリカ,ジャマイカ,メキシコ,ペルー,韓国,スペインの計10ヶ国から422の判決が,WIPO Lex-Judgmentsに格納されていることが確認できた。
 なお,WIPO Lex-JudgmentsはInternet Explorerでは利用することが出来ない。筆者はMicrosoft Edge,Google Chrome,Firefoxでの動作を確認している。
 WIPOはデータベースに参加する国を引き続き求めており,今後WIPO Lex-Judgmentsに参加するWIPO加盟国が増え,データベースがより充実することが期待される。


注 記
1) WIPO Lex-Judgments
https://wipolex.wipo.int/en/main/judgments

2) WIPOニュース(2020年9月24日)
https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2020/article_0022.html
(参照日:2020年10月19日)

(國本 佳嗣)

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