専門委員会成果物

欧州特許庁情報会議を初めてオンラインで開催

 2020年10月20日,欧州特許庁(EPO)は,中国国家知識産権局(CNIPA)との間で,国際調査に関する2年間のパイロットプログラムを開始することを発表した1)。
 2020年11月2・3日の2日間にわたり,第30回欧州特許庁(EPO)の特許情報会議が,同会議では初めてオンラインで開催された1)。特許調査従事者,特許庁の専門家,商用特許情報サービスプロバイダなど,38カ国から約300名が参加し,一連のプレゼンテーションやディスカッションが行われた。本イベントは,当初エストニアのタリンで開催される予定だったが,パンデミックの影響を受けてオンライン形式に変更された。
 EPO長官のAntónio Campinos氏は歓迎の挨拶で,この会議の新たな方向性を表明した。EPOは2021年から新たに,特許の知識に関連するトピックに焦点を当てた「Patent Know-ledge Week」を開催する。同長官はまた,コロナウイルスからの回復を促進する上での知的財産の役割についても講演し,以下のように述べた。「イノベーションは,パンデミックに対処するための解決策を見出すだけでなく,コロナウイルス後の不況から経済を引き上げるために必要な成長を促進するだろう。最近では多くのことがイノベーションに依存しており,出資はこれまでになく高くなっている」
 EPO Director Patent Knowledge PromotionのMarco Bravo氏は,PATLIB 2.0プロジェクトについて参加者に最新の情報を提供した。PATLIB 2.0は,EPO加盟国全体の情報・支援センター(PATLIBセンター)のネットワークを大きく前進させることを目的としている。この構想は,2019年5月のPORTO PAPERで定義された7つの提言に基づいており,PATLIBセンターが提供するサービスの範囲を拡大し,すべての加盟国全体で知財指導,技術移転,知財支援を後押しすることを目的としている。
 今年のイベントでのもう一つの重要なトピックは,人工知能(AI)であった。いくつかのセッションでは,AIが特許制度に与える影響を取り上げ,AI関連データの検索と分析に関する知識を共有した。WIPO IP Information OfficerのIrene Kitsara氏は,AI分類法の開発経験や,AI関連特許の調査から得られたその他の重要な教訓を紹介しつつ,AIに関する2019年の技術動向報告書の調査結果の一部を掘り下げた。同氏の講演では,AIと知的財産との関係,そしてそれが人,ツール,行政の将来に何を意味するかについて取り上げられた。
 世界各国の特許庁は,パンデミックに対して一連の対策を講じており,これらの成功事例が紹介された。また,EPOは,最近発表されたターゲット検索,特許統計,ダウンロード可能なデータシートを収めた,科学研究者や臨床研究者のための無料オンラインリソースのパッケージを含む,EPOの取り組みを参加者に紹介した。
 その他のトピックとして,リーガルテクノロジーソリューションの新たなトレンド,特許データの改善,イノベーションマネジメントに関する新しいISO規範が特許調査に与える影響などが取り上げられた。
 ユーザーとの対話は会議の軸であり,フィードバックのための重要なプラットフォームとなってきている。ディスカッションラウンドのひとつでは,参加者はリニューアルされたEspacenetについての意見交換を行った。1年間の運用を終えた今,特許庁がユーザーとのギャップを見極め,満足度を測るのに役立つ貴重な意見がユーザーから寄せられた。別のセッションでは,EPOが2021年にリニューアルを予定しているCPCウェブサイトに焦点が当てられた。

注 記
1) EPOニュース(2020年11月5日)
First digital EPO Patent Information Conference marks start of a new era in patent knowledge
https://www.epo.org/news-events/news/2020/20201105.html
(参照日:2020年11月25日)

(西尾 卓)

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