専門委員会成果物

EPOが欧州の大学および公的研究機関の特許の活用状況を公表

 11月24日,欧州特許庁(EPO)は欧州の大学および公的研究機関の特許の活用状況に関する研究結果(“Valorisation of scientific results-Patent commercialisation scoreboard:European universities and public research organisations”)を発表した1)。

 【調査対象・期間】
 調査対象は,2007年から2018年の間に欧州特許庁に特許出願された欧州の大学および公的研究機関が出願人の発明(特許出願又は登録特許)のうち650件である。650件の内訳は係属中が446件,登録特許が204件である。調査は2019年上期に行われた2)。

 【調査結果】
 調査対象の発明のうち,3分の1以上(36%)が既に商業的に活用されており,残りの42%も活用予定があることが分かった。
 最も利用されている活用方法はライセンス供与であり,その割合は商業的な活用の70%を占めた。ライセンス供与に続く活用方法は,研究開発協力(14%),特許権の売却(9%)であった。
 このうちライセンス供与および売却が占める割合は,公的研究機関より大学の方が高かった。また,ライセンス供与を行っている大学および公的研究機関の割合を地域別にみると,北欧および西欧(ドイツを除く)が85%であり,南欧および東欧(72%),ドイツ(51%)よりも高かった。ドイツはライセンス供与が少ない一方で,特許権の売却は15%と,北欧および西欧(ドイツを除く)の6%,南欧および東欧の3%に対して高かった。
 既に商業的に活用された発明の協業相手の内訳は,中小企業が41%,大企業が39%とほぼ同じであった。一方,活用予定がある発明の協業相手の内訳は,中小企業が49%,大企業が30%と,既に商業的に活用された発明と比較して差があった。
 既に商業的に活用された発明の協業相手の内訳を協業相手の地域別にみると,大学および公的研究機関と協業相手が同じ国である割合が74%と高かった。続いて,他の欧州国が27%,北米が6%,アジアが2%だった。既に商業的に活用されている発明に関し,大学および公的研究機関と協業相手とが同じ国である割合は,ドイツが84%と最も高く,北欧および西欧(ドイツを除く)が73%,南欧および東欧が54%であった。この結果は,南欧および東欧諸国にある大学および公的研究機関は,同じ国において商業化に向けた協業相手を見つけにくく,他の欧州諸国に協業相手を求めている現状を反映しているものである。

 【調査結果から見えた課題】
 研究結果では,発明の3分の2がまだ商業的に活用されていない理由についても言及している。その理由は,開発中である(63%),商業的機会を得られなかった(55%),協業相手が見つからなかった(38%),リソース不足(25%)といった順であった。協業相手が見つけられなかった,リソース不足の2つは南欧および東欧の国々にとって特に深刻である,と言及している。

注 記

  1. New EPO study:European patents preferred tool for the commercialisation of inventions developed by Europe’s universities and public research organisations(2020年11月24日)
    https://www.epo.org/news-events/news/2020/20201124.html
  2. 報告書詳細
    http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/f90b78b96b1043b5c1258626006cce35/$FILE/Valorisation_of_scientific_results_en.pdf

(参照日:2020年12月18日)

(林 潤平)

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