専門委員会成果物

WIPOが2019年の世界知的財産権指標報告書(WIPI)を公表

 WIPOの世界知的財産権指標報告書(WIPI)によると,2019年の全世界における商標登録出願は5.9%増加,意匠登録出願は1.3%増加となった。一方で,特許出願は3%の減少となり,10年来で初めての減少となった1)。この特許出願件数の減少は,中国居住者による中国への出願の減少が起因しており,中国への特許出願件数を除けば,前年と比較して2.3%の増加となった。
 WIPOのDaren Tang事務局長は「COVIDによるパンデミックは,日常生活のデジタル化,新技術の普及を加速化させている。知的財産権はテクノロジー,イノベーション,デジタル化との関連性が深いため,COVID後の世界において知的財産権の重要性は多くの国にとってさらに高まる」と述べた。主な知的財産権の概要は以下の通り。

 【特許】 世界中で出願された特許は約320万件となった。出願国別でみると,最も件数が多かったのは中国への出願であり,約140万件となった。中国に次いで,米国(621,453),日本(307,969),韓国(218,975),欧州(181,479)の順に多く,これら5庁への出願が全体の84.7%を占めた。出願件数が増えた国は,韓国(+4.3%,前年比,以下断りが無ければ同様),欧州(+4.1%),米国(+4.1%)であり,一方で出願件数が減少した国は,中国(-9.2%),日本(-1.8%)であった。中国への出願件数が減少したのは24年ぶりのことであるが,これは中国の特許出願構造の最適化および出願の質を向上させることを目的とした規制により,中国居住者による出願件数が10.8%減少したことが原因と考えられる。
 出願地域別でみると,アジア圏への出願が全体の65%を占めており,中国の長期的な成長により2009年の50.9%から大幅に増加している。また,北アメリカは20.4%,欧州は11.3%,その他の地域が3.3%となった。

 【商標】 約1,520万の区分に及ぶ約1,150万件の商標登録出願が世界中で出願された。昨年と比較して,区分は5.9%増加し,10年連続の増加となった。出願国別でみると,中国が約780万の区分となり,最も多かった。中国に次いで,米国(672,681),日本(546,244),イラン(454,925),欧州(407,712)の順に多かった。上位20か国の中で,ブラジル(+22.3%),ベトナム(+19.3%),イラン(+18.4%),ロシア(+16.5%),トルコ(+15.5%)の順で増加率が高かった。ブラジルは,マドリッド協定議定書に加盟し,2019年10月2日から施行されたことで,出願件数の増加率が高くなった可能性が考えられる2)。
 出願地域別でみると,アジア圏が全体の70.6%を占めており,2009年時から38.7%増加した。欧州は全体の36%を占めており,2009年時から15.4%減少した。また,北アメリカは5.7%,その他の地域が8.3%となった。

 【意匠】 約136万件の意匠を含む約104万件の意匠登録出願がなされ,昨年と比較して1.3%増加している。出願国でみると,中国への出願が711,617件となり,全体の52.3%を占めており,最も多かった。中国に次いで,欧州(113,319),韓国(69,360),米国(49,848),トルコ(46,202)の順に多かった。上位20か国の中で,出願件数の増加率が二桁となったのは,ロシア(+22%),イラン(+19.3%),オーストラリア(+10.3%)となった。ロシアは,ハーグ協定のジュネーブ改正協定に加盟し,2018年2月28日から施行されたことにより,出願件数の増加率が高くなった可能性が考えられる3)。
 出願地域別でみると,アジア圏が全体の68.4%を占めており,アジア圏に次いで,欧州は24.3%,北アメリカは4.2%,その他の地域が3.1%となった。

注 記

  1. WIPOプレスリリース(2020年12月7日)
    https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2020/article_0027.html
  2. Statistical Country Profiles Brazil
    https://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/country_profile/profile.jsp?code=BR
  3. Statistical Country Profiles Russian Federation
    https://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/country_profile/profile.jsp?code=RU

(参照日:2020年12月16日 )

(疋田 拓己)

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