専門委員会成果物

欧州特許庁が第4次産業革命技術に関する研究結果を発表

 2020年12月10日,欧州特許庁(EPO)は,特許分析により第4次産業革命が世界的に大幅に加速しているとする研究結果を発表した1)。
 第4次産業革命に関連する技術はIoT,ビッグデータ,5G,人口知能(AI)であり,これらに関する特許出願は2010年から2018年で年平均約20%の割合で増加し,この増加率は全技術分野の平均の5倍に迫る勢いである。例えば,2018年だけで40,000件近くの特許出願がなされ,これは全ての特許出願の10%以上を占める。なお,本ニュースにおいて特許出願件数はファミリー単位でのカウントである。

 【技術分野別】
 技術分野別では,通信とデータ管理の分野でイノベーションが最も急激に加速している。
 このうち通信分野の出願件数が第4次産業革命技術全体の中で最多であり,2010年以降,特許出願は年間26.7%増加しており,2018年には約14,000件の出願がなされている。通信分野としてはプロトコルや短距離・長距離通信等が含まれ,5Gの開発が大きく牽引している。
 次いで,データ管理は,データの作成,処理,分析からフィードバック実行等の技術を網羅するものであり,2010年以降,特許出願は年平均22.5%増加し,2018年の特許出願件数は11,000件以上に上る。
 また,第4次産業革命技術は,消費者向け商品・サービス,自動車,ヘルスケア,製造業に至るまで様々な分野に対して影響を与えている。最も影響が大きいのはウェアラブル,エンターテイメント,玩具,テキスタイル等のスマート消費財であり,2018年には10,000件以上の特許出願がなされている。

 【国別】
 国別では,米国からの特許出願が2000年から2018年の間の件数の約3分の1を占めており,2010年以降,世界の特許出願をリードし続け,年平均18.5%で増加している。一方,欧州と日本からの特許出願はそれぞれ全体の約5分の1であり,増加率は15.5%と15.8%である。中国と韓国からの特許出願については,2000年代後半は少ないものの,2010年から2018年にかけては非常に増加した(それぞれ年平均増加率は39.3%,25.2%)。
 欧州域内においては,ドイツは2000年から2018年の欧州域内の第4次産業革命技術関連の全特許出願の29%を占め,英国(14.3%),フランス(12.5%)の2倍以上であった。しかし,2010年から2018年の間ではこれら3カ国は世界平均の増加率(19.7%)を大きく下回っている。対照的に2010年から2018年の増加率で世界平均以上であったのはスウェーデン(増加率22.6%)とスイス(同19.6%)である。また,2000年以降の出願件数では,スウェーデン(2000年以降の欧州全体の10.1%),オランダ(同7.7%),フィンランド(同6.9%),スイス(同3.5%)等も欧州の第4次産業革命に貢献しているといえる。さらに,フィンランドとスウェーデンは,人口100万人あたりの特許出願件数ではそれぞれ651件と524件で欧州域内では最も多く,韓国(525件)に匹敵する。

 【地域・企業別】
 第4次産業革命技術に関する2010年から2018年の特許出願件数で見ると上位10社で全体のほぼ4分の1を占める。1位と2位は韓国企業であり,その他,欧州2社,米国4社,日本・中国が1社ずつである。2000年から2009年ではランキングに入っていた欧州や日本企業は,2010年以来,米国,韓国,中国の各企業に取って代わられた。
 地域で見ると,第4次産業革命は特定の都市に集中しているといえる。上位20都市で全特許出願件数の半分以上(56.3%)を占める。2010年から2018年の期間では,アジアと米国が13都市,欧州と中東が7都市である。2大主要都市はソウルと東京であり,それぞれ世界の特許出願件数の10%近くを占め,3番目はサンノゼ(シリコンバレー)で6.8%である。トップ10に入っている米国,韓国,中国の各都市からの特許出願件数は2010年から2018年の間に大きく増加し,特に北京からの特許出願は最も高い増加率(年間30%)であった。

注 記
1) EPOプレスリリース(2020年12月10日)
https://www.epo.org/news-events/news/2020/20201210.html
(参照日:2020年12月16日)

(村上 加奈子)

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