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〈中国〉インターネット裁判所の設立

 2017年8月18日,中国浙江省杭州市に中国国内初となるインターネット裁判所が設立された。設立式には,最高人民法院の周強院長,中国共産党・浙江省委員会の車俊書記長らが出席した。

 杭州市は,中国電子商取引最大手のアリババ・グループの本拠地であるだけでなく,多数のインターネット関連事業者が本社を構える新興IT企業の集積地でもある。こうした新興IT企業が 中国経済に与えるインパクトは非常に大きく,これまで彼らが経済成長の一翼を担ってきたともいえる。例えば,中国のEコマース(以下EC)市場を一つとっても,その市場規模は,約5兆元(日本円換算で 約84兆円,その内モバイルEC市場が約62兆円)と巨大であり(図1),これは,我が国のEC市場の約3.7倍に匹敵する規模である(2016年のBtoC・BtoB両分野のEC市場合計約23兆円)。

 このように急拡大した中国EC市場の負の側面として,中国では,EC市場などでの法的な争いが急増している。例えば,先述のアリババを提訴する訴訟件数は,2013年の時点では,過去2年間の累計で100件に満たない件数であったが,2015年に入るとたった2ヶ月でこの件数を超える勢いで訴訟件数が急増している。こうしたEC市場やインターネット上での様々な紛争の解決を目指し,インターネット 裁判所は設立されたと考えられる。

 インターネット裁判所での審理対象は,オンラインショッピング関連の紛争,インターネット上での著作権関連の紛争,インターネット上での人格権関連の紛争,インターネットドメイン関連の紛争,インターネット行政管理に起因する行政紛争である。これら紛争について,当事者は一連の訴訟手続きをインターネット裁判所が提供するWebアプリケーションやライブ配信などを活用し,原告と被告が 実際に会うことなく,訴えの提起から判決の言渡しまでを完結することができる。これにより当事者は,従来の裁判方式に比べ大幅に時間と費用を節約できるメリットを享受することができる。

 しかし,裁判管轄が杭州市内のEC取引などに限定されてしまう点や下級審レベルの案件に限定されてしまう点(インターネット裁判所の判決に不服がある場合,控訴は可能だが,その場合,従来の訴訟形式を採る杭州中級人民法院が当該案件を審理することになる)といったデメリットも存在している。

 こうした課題を残しつつも,本年10月に行われた第19回共産党全国代表大会では,更なるICTの活用により,今後も経済・産業の発展を目指していく趣旨の報告がなされており,明確な政府指導の下,インターネット裁判所がどのように中国社会に受け入れられて行くのか,今後の行方が注目される。

(参考ウェブサイト)

1)杭州インターネット裁判所
http://www.netcourt.gov.cn/portal/main/domain/index.htm

2)JETRO「互聯網+(インターネットプラス)」で変わる中国のライフスタイル2017(2017年3月)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2017/7854a5ba68a23e2d/reportchina2017.pdf

3)経済産業省「平成28年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」報告書(2017年4月)
http://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170424001/20170424001-2.pdf

(URL参照日は全て2017.11.22)

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