専門委員会成果物
水風船玩具に関する特許について差止請求の仮処分を認容した事例
CAFC判決 2017年１月24日Tinnus Enterprises, LLC, Zuru LTD. v. Telebrands Corporation, Bed Bath & Beyond, INC.
［経緯］
Tinnus Enterprises, LLC（TI社）は，自己の水風船玩具に関する特許9,051,066（’066特許）が侵害されたとして，Telebrands Corporation（TE社）に対する差止請求の仮処分を求めて地裁に提訴した。 地裁は，TE社製品が’066特許を侵害するものとし，差止請求の仮処分を認容する判決を下した。TE社は，地裁が��TE社製品は’066特許に対する侵害の蓋然性が高い，�◆�066特許のクレームは自明なものでない，��TI社は侵害による回復困難な有害性を示した，等と結論付けたのは，自己の裁量権の乱用で あるとしてCAFCへ控訴した。
［CAFCの判断］
CAFCは，上記� 銑�につき，以下の通りの見解を述べ，地裁の判断を肯定した。�� TE社は，地裁が侵害有無についてクレーム構成要素を満たすか否かを，原告の製品マニュアルを根拠にした点は誤りである，と主張した。しかし，製品マニュアルは侵害の状況証拠であり，特許権者はそれを根拠にする資格を有する。もしTE社が直接侵害の証明に，直接的証拠を要すると主張するならば，事実の直接的証拠は必ずしも必要ではないという基本法に則り受け入れられない。
�� TE社は，非自明性につき，TE社の挙げた先行文献が発明の解決課題に対して合理的に適切なものか否かを検討せずに，それらの先行文献の組み合わせの動機づけが無いとした地裁判断は誤りであると主張した。しかし，本発明の課題は複数の風船に対して急速に水を満たすことであり，内視鏡の風船挿入装置に関わる先行文献の課題とかけ離れており，TE社は本発明の課題に対して当該文献が合理的に適切であることも示していない。故に，これらの文献を組み合わせる動機が十分でなく，地裁が明白な誤りを犯したとはいえない。
�� TE社は，回復困難な有害性の発見の根拠を，’066特許発行前の証拠に依拠した地裁判断は誤りであると主張した。しかし，回復困難な有害性は’066特許発行前の証拠のみに依拠している訳ではない。記録には，回復困難な有害性の発見の根拠に十分な，’066特許の発行後の証拠が含まれている。例えば，’066特許発行から数週間後のアマゾンのTI社製品レビューによると，「ブランド品」であるTE社製品よりも「ノーブランド品」であるTI社製品の方が良いとコメントされており，TI社の評判に対して持続的な有害性が形成されている。故に，地裁の明白な誤りを見出すことは出来ない。
（吉田 拓也）
