専門委員会成果物

ミーンズ・プラス・ファンクションクレームに対応する構造の開示がないために不明確であるとして特許無効と判断した事例

CAFC判決 2017年1月9日
Cloud Farm Associates LP v. Volkswagen Group of America Inc., Zf Sachs AG

[経緯]

Cloud Farm Associates LP(C社)は車両傾斜制御装置に関する4件の特許5,437,354(’354特許),5,529,153(’153特許),5,971,115(’115特許),5,979,616(’616特許)を保有しており, Volkswagen Group of America Inc.(V社)が当該特許を侵害するとして地裁に提訴した。
地裁は,’354特許と’153特許と’115特許は非侵害とし,’616特許は無効の最終判決をした。C社はこれを不服として控訴した。

[CAFCの判断]

CAFCは,地裁の判決を支持した。
裁判では5つの文言の解釈が争点になった。それは,“seal”と“prevent”と,ミーンズ・プラス・ファンクションクレームの“sensing means within said steering column”と“means for controlling”と “means for activating”である。
CAFCは,まず,クレームの文言は通常かつ慣習的な意味で解釈すべきであり,そのルールの例外として,特許権者が辞書編集者として文言を定義しているか,または,クレーム文言の範囲を否定した場合に 例外が適用されるとした。
その上で,’354特許と’153特許と’115特許の“seal”と“prevent”は明細書に通常の意味で記載されており,それは車両傾斜制御装置における流体の流れを「止める」意味だと判断した。そして, C社が主張する,流れを「緩やかにする」意味は含まれないとした。従って,V社製品のように流体の流れを止めないものは含まれず,これらの特許は非侵害と判断した。
次に,CAFCは,特許法第112条のミーンズ・プラス・ファンクションクレームで表現する場合は,クレームされた機能と明細書の構造を対応させる義務があるとし,機能に対応する構造が明細書にない場合には, そのクレームは不明確であるとした。
その上で,’616特許の“sensing means within said steering column”と“means for controlling”は明細書に構造が開示されておらず不明確と判断した。
最後に,CAFCは,ミーンズ・プラス・ファンクションクレームがコンピュータにより実行されるものである場合には,一般的な目的のプロセッサだけでなく機能を実行するアルゴリズムの開示が必要だとした。
その上で,’616特許の“means for activating”はコンピュータにより実行されるが,明細書にはアルゴリズムの開示がないため不明確と判断した。
以上から,CAFCは,’616特許は不明確で無効と判断した。

(山田 量也)

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