専門委員会成果物

識別情報読み取り装置の特許が特許法第112条第2項の明瞭性要件を備えていると判示された事例

CAFC判決2017年1月5日
Sonix Technology Co., Ltd. v. Publications International, Ltd., et al.

[経緯]

Sonix Technology Co., Ltd.(S社)は,Publications International, Ltd.(P社)が識別情報読み取り装置の特許7,328,845(’845特許)の侵害であるとして提訴した。P社は’845特許が無効であると 主張した。
地裁では,’845特許の識別情報が“視覚的に無視可能な程僅かである(visually negligible)”という用語が,その境界を判断するための客観的基準がなく受け取る側の認識に依存するものであることから, 不明瞭であるとして無効の略式判決を下した。
S社はこれを不服としてCAFCに控訴した。CAFCでは,“visually negligible”という用語が明瞭であるか否かが争われた。

[CAFCの判断]

特許法第112条第2項の明瞭性要件は,明細書記載の実施例および経過情報を考慮して判断すること,並びに,言語本来の意味を考慮すること,が必要であるとした。
’845特許の明細書において識別情報は,人間の目で無視可能である程僅かであり,光学装置でのみ検知可能であることが記載されている。実施例としては,主情報(馬の絵)と,人間の目で無視可能な程僅かな識別情報 (馬の音声情報)と,を紙に印刷しておき,光学装置で馬の音声情報を読み取ることで,実際の馬の鳴き声を出力することが記載されている。
経過情報について,本件特許侵害の提訴後の数年間は“visually negligible”の用語の明瞭性について問題となっておらず,両当事者の専門家は,この用語を先行技術や侵害の特定において使用していた。
言語本来の意味について,“visually negligible”という用語は,通常,人間の目で見ることができるか否かという,クレームを解釈するための客観的な基準を提供しているため,クレームされた発明を当業者が 合理的な範囲で理解できる。
従って,’845特許の“visually negligible”という用語は,特許法第112条第2項の明瞭性要件を備えているとした。
以上のことから,CAFCは地裁の判決を無効として審理を差し戻した。

(西城 克利)

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