専門委員会成果物

地裁の判断を覆して特許適格性なしと判断した事例

CAFC判決 2017年3月1日
Smartflash LLC, Smartflash Technologies Limited v. Apple Inc.

[経緯]

 Smartflash LLCは,オーディオやビデオデータの管理を行うデータ記憶およびアクセスシステムに関する3つの特許7,334,720,8,118,221,8,336,772の特許権者である。Smartflash LLCおよび Smartflash Technologies Limited(S社と総称)は上記3つの特許に基づいてApple Inc.(A社)に対して特許侵害訴訟を提起した。下級審の連邦地裁では,A社は上記3つの特許について35 U.S.C.§101の 特許適格性違反に基づく無効を主張したが,A社の主張は認められず,3つの特許は有効であると判断された。その結果,連邦地裁判決ではA社に対して約5億3千万ドルの賠償金の支払いが命じられた。
 連邦地裁は,Alice最高裁判決(Alice Corp. v. CLS Bank, 2014)等で用いられた2ステップテストに沿って,3つの特許に対する35 U.S.C.§101の特許適格性を判断した。ステップ1では, クレームに記載された「支払情報に基づいてデータのアクセスを調整し,制御する」ことは抽象的概念に過ぎないと判断した。しかし,ステップ2では,クレームに記載された「異なる複数のメモリ, 複数種類のデータ,使用ルールを用いた特定の方法」は単なる抽象的概念を遥かに超える(significantly more)ものであり,特許適格性があると判断した。A社はこの判決を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,連邦地裁の判決を覆し,3つの特許について,いずれも35 U.S.C.§101の特許適格性が無く,無効であると判断した。
 ステップ1の判断では,先のEnfish判決(CAFC, 2016)において,クレームがコンピュータの性能改善に向けられたものであるか,あるいは,コンピュータを単にツールとして使用しているにすぎないかを 判断したことを引用しつつ,本事案では,3つの特許のクレームに記載された発明において,コンピュータは「基本的な経済活動(fundamental economic practices)」を実行するための単なるツールとして 記載されているにすぎないと判断した。その結果,CAFCは,ステップ1の判断において,連邦地裁の判断と同様,クレームに記載された発明は抽象的概念に過ぎないと結論付けた。
 続いて,ステップ2の判断では,クレームに記載されたデータの記憶,送信,読み出し等の処理は,単にコンピュータの通常の処理を規定したにすぎないと判断した。
 これを受けて,S社は,3つの特許のクレームは「特許適格性があるとされたDDR判決(CAFC, 2014)のクレーム」と類似する旨,主張した。しかし,CAFCは,3つの特許のクレームに記載されている読み出し, 受信,支払い確認データに対する応答等の処理は,DDR判決のクレームに類似するというよりは,コンピュータの通常の処理を規定したに過ぎないと判断したUltramercial判決(CAFC, 2014)のクレームに 類似すると判断した。その結果,CAFCは,ステップ2の判断において,クレームに記載された発明は,抽象的概念を特許適格性のあるものに変換するものではなく,35 U.S.C.§101の特許適格性がないと結論付けた。 この認定に基づいて,CAFCは連邦地裁の特許有効とする判決を棄却し,差し戻した。

(四方 孝)

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