専門委員会成果物

地裁の判断を覆して特許適格性ありと判断した事例

CAFC判決 2017年3月8日
Thales Visionix Inc. v. United States

[経緯]

 Thales Visionix Inc.(T社)は,F-35戦闘機のヘルメット搭載ディスプレイシステム(HMDS)がT社の特許6,474,159(’159特許)を侵害していると主張して,米国政府に対して訴訟を提起した。
 そして,連邦地裁は,’159特許の全クレームは35 U.S.C.§101の特許適格性がないと判断した。
T社は,この判断を不服としてCAFCに控訴した(2015年7月20日,2015-5150)。

[CAFCの判断]

 ’159特許は,移動するプラットフォーム(例えば航空機)に対する物体の動きを追跡するための慣性追跡システムに関する。クレーム1のシステムは,追跡物体に取り付けられた第1の慣性センサと, 移動基準フレームに取り付けられた第2の慣性センサと,第1および第2の慣性センサから受信される信号に基づいて移動基準フレームに対する物体の向きを決定する構成要素と,を備える。
 CAFCは,Alice最高裁判決の2ステップテストを用いて,’159特許の特許適格性を分析した。
CAFCは,先例として,抽象的概念,すなわち数式を含むにも関わらず35 U.S.C.§101の要件を満たすクレームを見出したDiehr最高裁判決を重視した。Diehr最高裁判決のクレーム(Diehrのクレーム)は, 未硬化ゴムを成型して硬化ゴム製品にする方法において,金型の内部温度を用いて適切な硬化時間を計算するためにのみ方程式を使用する。Diehrのクレームは,従来にないゴム成型プロセスを規定するものであり, Aliceテストの観点で言えば,数式自体ではなく改善されたゴム成型プロセスを対象とするので,特許適格性があると判断された。
 CAFCは,’159特許のクレームがDiehrのクレームと「ほとんど区別がつかない」ことを見出した。’159特許のクレームは明示的に数式を含んでいないが,’159特許の明細書を参酌すると,Diehrのクレームが 適切な硬化時間を計算するために方程式を使用するように,’159特許のクレームは,移動基準フレームに対する物体の向きを決定する際に,位置と向きの情報を集計するためにのみ,慣性センサの配置と物理法則の 適用によって規定された方程式を使用する。また,Diehrのクレームがゴム成型プロセスについて過度な硬化や未硬化を低減するよう改善するように,’159特許のクレームは,物体の慣性追跡システムについて誤差を 低減するよう改善する。
 CAFCは,’159特許のクレームは,移動基準フレーム上の移動物体の相対的な位置と向きを測定する際の誤差を低減するように,従来にない構成で慣性センサを使用するシステムを対象としていると結論付けた。 CAFCの見解では,’159特許の発明は,誤差を低減するという改善のために物理法則を適用しており,クレームされた発明を完成するために数式を使用するというだけでは,クレームが抽象的概念を対象と することにはならない。’159特許は,数式自体の保護を求めるものではなく,センサの従来にない構成についての物理法則の適用のみの保護を求めるものである。
 よって,CAFCは,連邦地裁の判決を覆し,’159特許のクレームは2ステップテストをステップ1で抜け,抽象的概念を対象とするものではなく特許適格性があると判断した。

(和泉 恭子)

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