専門委員会成果物

PTABにおける新規性(Anticipation)の判断を覆し,またKennametal, Inc. v. Ingersoll Cutting Tool Co.での判断を明確にした事例

CAFC判決 2017年3月14日
In Re:Angadbir Singh Salwan

[経緯]

 Nidec Motor Corporation(N社)は,モータ等の回転機の制御システムに関する特許7,208,895(’895特許)の特許権者である。’895特許では,モータの制御において,ステータに関する固定座標系とロータに関する回転座標系の2つの座標系で示される信号を用いており,回転座標系における信号にはロータに関連したd軸要素とq軸要素という2要素が含まれていた。そして’895特許のクレーム21はクレーム12に従属する 方法クレームであり,クレーム12ではq軸要素に対応するIQr要求をd軸要素に対応するIdr要求と結合し,回転座標系に関するIQdr要求信号を出力することを構成要件としていた。
 この’895特許のクレーム21に対し,Zhongshan Broad Ocean Motor他(Z社と総称)は’895特許はKusaka特許に基づいて新規性がない(Anticipation)ことを理由にIPRを請求した。Kusaka特許には,回転座標系における 基準電流IqとIdは電流制御部にて変換して固定座標系の基準電流Iu,Iv,Iwを出力する構成が開示されていたことから,PTABは,Kusaka特許の基準電流Iu,Iv,Iwは’895特許のIQdr要求信号に相当するため新規性がないと 判断し,’895特許のクレーム21は無効である旨の最終決定を下した。この最終決定を受けて,N社は,Kusaka特許にはIQdr要求が開示されていないと主張してCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,新規性は実質証拠に基づいて判断されるところ,’895特許のIQdr要求信号は回転座標系に関するものであり,一方のKusaka特許は固定座標系に関する基準電流Iu,Iv,Iwと異なることから,’895特許はKusaka特許に基づいて新規性は否定されないと結論した。またPTABでは,Kennametal, Inc. v. Ingersoll Cutting Tool Co. (Kennametal事件)に基づき,先行文献にクレームの構成が開示されていなくとも 当業者が未開示の構成を直ちに予想できる場合は新規性が無いとして’895特許に新規性がないと判断されていたが,CAFCは,Kennametal事件ではこのような判断は認めておらず,本件に対する適用は誤りであると判断した。

(山名 健司)

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