専門委員会成果物

ミーンズプラスファンクションクレームのクレーム範囲が明細書,審査経過,外的証拠に基づいて狭く解釈された事例

CAFC判決 2017年4月14日
Core Wireless Licensing S.A.R.L. v. Apple Inc.

[経緯]

 Core Wireless Licensing S.A.R.L.(C社)が携帯電話のパケットデータ通信に関する特許6,978,143(’143特許)に基づき,Apple Inc.(A社)を特許侵害で提訴し,地裁がA社の非侵害と判決した。
 CAFCでも争われた’143特許のクレーム17は,ネットワークに接続されたモバイルステーション(例えば携帯電話)において,「比較手段」が閾値と現在の値の比較を行い,比較結果によって共通チャネルと専用 チャネルの内のどちらか一方が選択され,選択されたチャネルを用いて携帯電話がデータを送信するという内容であった。
 地裁の下級判事はクレーム解釈において,「比較手段」を実行するための構造を「’143特許の図6及び明細書に示されたアルゴリズムとその均等物に基づいて,(携帯電話内の)制御ユニットが閾値と現在の 値の比較を制御するようにプログラムされている。」と解釈した。
 A社は審理において,A社の携帯電話が共通チャネルと専用チャネルを「選択する機能」をもっておらず,どちらのチャネルを使用して通信を行うかの「選択」の責任はネットワーク側にあると示し,審理の 結論として陪審員はA社が非侵害だと判断した。
 C社は公判後の申し立てにおけるJMOL(法律問題としての判決)で,クレーム17の「比較手段」を携帯電話がチャネルの「選択」を行う事まで要求していると解釈するのは,A社がクレーム解釈を誤用していると 主張した。これに対して地裁は異議を唱え,「たとえチャネル選択機能がクレームされた方法の動作中に使用されなかったとしても,携帯電話がチャネル選択を実行する機能がある」事をクレーム17が要求しているとした。
地裁は,このクレーム解釈に基づいて陪審員が非侵害を認定するのに十分な根拠があると結論付けた。

[CAFCの判断]

 CAFCは地裁の判断を支持し,A社の非侵害と判決した。
 主な争点は,クレーム17の解釈において,携帯電話側が共通チャネルと専用チャネルの「選択機能」を持つ事を要求しているか否かであった。
 C社は,クレーム17の「比較手段」の限定が,チャネルの「選択機能」までは要求しておらず,携帯電話が閾値との「比較機能」を持ってさえいればよいと主張した。
 CAFCはWMS事件とErgo事件を引用し,クレーム17はミーンズプラスファンクションクレームであり,明細書には携帯電話内で「比較」と「選択」の両方を実行する構造の記載しか存在しない事から, クレーム範囲も携帯電話が「選択機能」を持つ事まで要求しているとした。また,審査経過と外的証拠(’143特許の発明者による標準化団体での提案)も携帯電話に「選択機能」がある事を裏付けていると述べ, 地裁の判決を支持した。

(陶山 研悟)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.