専門委員会成果物

IPRにおいて,クレーム用語の解釈に「最も広い合理的解釈」を採用したPTABの判断は誤りであると判断された事例

CAFC判決 2017年5月9日
Nestle USA, INC. v. Steuben Foods, INC.

[経緯]

 Nestle USA, INC.(N社)は,Steuben Foods, INC.(S社)の特許6,945,013(’013特許)のクレーム18-20について,IPRを請求した。’013特許は,無菌的に滅菌された食品を自動で無菌的に 瓶詰めする方法に関する。
 IPRにおいて,PTABは,「無菌(aseptic)」という用語について,無菌に関する適用可能なFDA(米国食品医薬品局)の全基準を包含すると解釈し,対象クレームの発明は当業者にとって非自明と結論づけ, ’013特許のクレーム18-20を有効と決定した。
 N社は,この決定を不服として,無菌包装に関するもの以外のFDA基準をも包含するとしたPTABの解釈は誤っていると主張し,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,IPRにおけるクレーム用語の解釈は,過去の判例に基づき,最も広い合理的解釈(broadest reasonable construction)を採用するとした一方で,最も広い合理的解釈であっても 法的に誤った解釈は含まない,とした。また,クレームの用語は,一般的に,通常かつ慣習的な意味を有するが,特許権者は,辞書編纂的に独自の意味を持たせた用い方もでき,特許権者が明細書で クレーム用語を明示的に定義した場合,その定義が採用される,とした。
 「無菌」の解釈について,明細書では,「無菌に関するFDA基準」を参照すると定義されており,その示す範囲が焦点となった。PTABは,参照すべき範囲を「関連する全てのFDA基準」と解釈し, FDAの残留過酸化水素の規制要件をその根拠としていた。しかしながら,FDAの残留過酸化水素の規制要件は,無菌包装されたものに限らず,全ての食品に適用されるものであることを受けて, CAFCは「無菌」の範囲は,無菌包装されていない食品に適用される規制を含み得ないとして,「無菌に関するFDA基準」を,無菌包装に関するFDA規制のみに限定して解釈した。
 ’013特許明細書における,「無菌」に関する微生物の低減効果についての言及が,出願当時に存在していた「無菌処理および包装」に関するFDAの定義に合致していたこともあり,CAFCは, 上記定義は,本件の「無菌」の合理的な解釈を示すと判断した。
 結果,CAFCは,「無菌」とは,適用可能な米国FDA基準全てを包含するとしたPTAB解釈が誤りであったと結論付け,PTABの決定を破棄し,本件を再審理のため差し戻した。

(金杉 勇一)

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