専門委員会成果物
当事者系再審査において，請求人が心変わりした場合でもPTOが再審査を開始することが適法であると判断された事例
CAFC判決 2017年５月10日In re：AT&T Intellectual Property II, L.P.
［経緯］
AT&T Intellectual Property II, L.P.（Ａ社）がデジタルビデオデータを圧縮して伝送する方法に関する特許7,454,071（’071特許）を取得した。LG Electronics, Inc.（Ｌ社）は，’071特許のいくつかのクレームに対し，先行技術により予測可能であるとして旧法（pre-AIA）の当事者系再審査（Inter Partes Reexamination）を請求した。
ところが，請求日から約２か月後，PTOが再審査を開始するか否かを決定する前に，Ｌ社は，その請求が却下されるべく，請願書をPTOに提出した。
しかし，２週間後，PTOは最初の再審査請求を認め，Office Actionを発行した。
Ａ社とＬ社は追加の主張をすることで，先行技術により予測可能では無い旨を主張し，審査官もその主張を認めたが，審査官は当該クレームが拒絶される別の理由を発見した。
そのやり取りの最中にＬ社が当事者系再審査を取り下げたが，審査官は最終的に拒絶の決定をし，PTABもその主張を支持した。
Ａ社はこの決定を不服として，CAFCに控訴し，Ｌ社が請求の却下を求めた後に，PTOが再審査を開始したのは，法的権限を越えており違法な手続きである旨を主張した。
［CAFCの判断］
CAFCは，次の�，�ら�Δ里箸�り，PTOが再審査を開始することは適法であると判断した。- PTOの当事者系再審査の開始の決定を審査する権限は35U.S.C.§312（c）（2011年９月16日発効）によって制限されており，この法律は，「（a）項に基づくPTOの決定は，最終的なものとし，不服申立をすることができない」ものであると規定している。
- （a）項は，「当該請求において提出された情報が，請求において争われるクレームの少なくとも１つに関して請求人が勝訴することを証明する合理的な可能性があるか否か」にのみ関係している。
- したがって，当事者系再審査に関する§312（c）は，§312（a）に基づいてなされた決定についての見直しを制限するだけである。
- Belkin International, Inc. v. KapposでCAFCが判断したように，「当事者系再審査は２ステップで実施され，第１に，長官は請求によって特許性について実質的な問題が提起されるか否かを決定しなければならない。」としている。
- Ａ社は，請求や請求者なしにPTOが再審査を開始するのは法的権限を欠いていると主張するが，「提出された情報が，請求者が勝訴する合理的な可能性を示しているかどうか」には関係がないことである。
- 「確かに請求人は請求が却下されることを望んだかもしれないが，再審査請求の開始を決定したその時に，請求と請求者が存在していたのであるからPTOは法的権限の範囲内で行動したものであり， CAFCはこの決定に対し妥当性をさらに検討する権限はない。」と判断した。
（平尾 拓樹）
