専門委員会成果物

35 U.S.C.第285条に関する地裁の裁量が濫用にあたらないと判断された事例

CAFC判決 2017年5月11日
Nova Chemicals Corporation, et al. v. Dow Chemical Company

[経緯]

  2005年に,Dow Chemical Company(D社)が,Nova Chemicals Corporation(N社)に対して,D社の特許を侵害したとして,地裁に提訴した。最終的には,CAFCが, N社に$61,000,000の損害賠償を命じた(2010年判決)。後に,追加の損害賠償に関する控訴審で,N社は,2010年判決の訴訟においてD社側が詐欺行為を犯した可能性があるという 証拠を見出したものの,連邦民事訴訟規則60(b)(3)下の申立てにより2010年判決を破棄させることは時効となっていた。そこで,N社は衡平法での訴えを起こし,2010年判決からの 救済を求めた。しかし,地裁は,詐欺行為の観点で先の判決を破棄するための要件を満たさないとしてN社の訴えを却下し,CAFCもこれを支持した。
 ここでD社が,35 U.S.C.第285条に基づき,N社に対して従前の判決に係る弁護士費用の支払いを求める申立てを行ったところ,地裁はこれを聞き入れ,N社の訴訟上の立場が劣ること等を根拠に, 本事件を第285条の“例外的事件”とみなし,N社に弁護士費用の支払いを命じた。
 N社は,この判決を不服として,CAFCに控訴し,地裁による例外的事件の決定が,裁量の濫用であると主張した。
 なお,第285条に規定の例外的事件とは,“当事者の立場の実質的な優劣,または訴訟が起こされた非合理的な態様に関して,他に比べて際立ったもの”とされ,“地裁は,全体的な状況を考慮して, 裁量により例外的事件かどうかを決定できる”との判示がある(Octane Fitness, LLC v. Icon Health & Fitness, Inc., 134 S.Ct.1749(2014))。

[CAFCの判断]

 CAFCは,次の①から⑥のとおり,PTOが再審査を開始することは適法であると判断した。
  1. CAFCは,地裁が,N社の訴訟上の立場の実質的な優劣等の観点に着目した点に言及し,「当事者の訴訟上の立場の実質的な優劣とは,客観的に見て根拠のない訴えかどうかである」として, 「本事件で詐欺行為があったとのN社の申立ては,関連性の小さい別訴訟の証言の矛盾に基づくもので,2010年判決にとって重要ではない」ことを理由に,「N社の訴訟上の立場を客観的に見て 根拠のない訴えとした地裁の判断は,裁量の濫用ではない」と判断した。
  2. N社は,地裁が,本事件を一般的な特許訴訟と比較して“際立った”と判断した点を誤りとして,「先の判決を破棄するような他の申立てと比較すべき」と主張した。 それに対してCAFCは,「N社は,第285条において地裁の比較基準に制限があるという主張を支持する先決例を引用していない」点を指摘しつつ,「地裁に対して,比較対象を狭めるように求めることは, “地裁は,全体的な状況を考慮して,裁量により例外的事件かどうかを決定できる”という最高裁の判示と相反する」とし,「地裁が本事件を一般的な特許訴訟と比較した点について誤りはない」と判断した。
  3. 以上よりCAFCは,「全体的な状況に基づき,本事件が第285条に規定の例外的事件であるという地裁の決定は,裁量の濫用にあたらない」と判決した。

(廣本 敦之)

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