専門委員会成果物

IPRの予備的応答での特許権者の陳述によりクレームが限定解釈されると判断された事例

CAFC判決 2017年5月11日
Aylus Networks, Inc. V. Apple Inc.

[経緯]

 Aylus Networks, Inc.(AY社)はメディアストリーミングアーキテクチャに関するUS特許RE44,412(’412特許)を所有しており,Apple Inc.(AP社)に対して特許侵害訴訟を地裁に提起した。
 これを受けて,AP社は当事者系レビュー(IPR)を提起した。IPRの予備的応答(Preliminary Response)において,AY社は『クレーム1の構成要件には,コントロールポイントとコントロール ポイントプロキシの少なくとも一方がメディアサーバもしくはメディアレンダラーに基づき呼び出され,ユーザーエンドポイントと通信する構成が必要であり,これが発明のポイントとなる態様である』と説明した。
 次に,AP社は特許侵害訴訟において『AY社がIPRの予備的応答で行った主張の内容に基づき,AY社のクレームは限定解釈されるべき』と主張した。
 地裁は略式判決で非侵害と判断した。AY社はこの判決を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 AY社が『IPRでの予備的応答は審理の決定の前でありクレームの限定解釈の根拠にされるべきものではない』と主張したことに関連して,CAFCは以下の点を判示し,地裁の判断を支持した。
 まず,クレームの限定解釈では特許権者が審査経過を通じて具体的に放棄した権利を取り除くが,これは特許権者に一方的に不当なものではない。
 次に,IPRの審理は審理開始の決定が行われることで開始されるが,クレーム解釈に関してIPRの審理開始(institution)の前後で区別されるべきではない。なぜなら審理開始の前に提出された特許権者の 予備的応答と,審理決定の後に提出された特許権者の応答は共にUSPTOに提出され,一般公開された公式文書である。両方の公式文書において,特許権者はクレーム用語を定義でき,またクレームの 権利範囲が引用文献とどう異なるかを主張することが可能である。
 そして公衆は当該特許の侵害を回避するための判断を行う際に,IPRの予備的応答での特許権者の表現に頼る権利を有する。
 そのため,IPRの進行中,すなわち審理の決定の前後のいずれであっても特許権者が行った陳述はクレームの限定解釈の対象となることに変わりはなくクレーム解釈の際に考慮されるべきものであるとした。

(高見 亮次)

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