専門委員会成果物
ハーグ送達条約は郵便による訴状の送達を禁止していないと判断された事例
最高裁判決 2017年５月22日Water Splash, Inc. v. Tara Menon
［経緯］
Water Splash, Inc.（Ｗ社）は元従業員であるTara Menon（Ｍ氏）を，彼女がまだＷ社の従業員であったにもかかわらず競合他社での業務を開始したとして地裁に訴えた。 その際，Ｍ氏がカナダ在住だったため，郵便によって訴状の送達を行った。その後，Ｍ氏が答弁も出廷も拒否したため欠席裁判判決が下された。この判決を不服として，Ｍ氏はテキサス州控訴裁判所に控訴し，郵便による送達はハーグ送達条約に適合しないと主張した結果，同控訴裁判所はこの主張を認めた。
Ｗ社はこの判決を不服として，最高裁に上訴した。
［最高裁の判断］
ハーグ送達条約第10条が郵便による送達を許可するか否かという争点を解決するための移送命令書が受理された。ハーグ送達条約第10条は（a）から（c）の３つのパートから構成される。同条（b）と同条（c）は許容される「送達」の方法について規定している。一方，本件で争点となった同条（a）は 「本条約は裁判書類を郵便によって海外の相手方に直接送る（send）自由を妨げるものではない」と規定しているが，明確に「送達」（service）とは言っていない。最高裁は，本条約の範囲は第１条にも 明記されているように書類の送達に限定されていることを理由に，全員一致で10条（a）の「裁判関係書類を送る」という文言は送達も含むと判示した。
最高裁は，以下の２つの条件が満たされた場合，ハーグ送達条約は郵便による訴状送達を許可すると判示した。
�� ハーグ送達条約における郵送による送達を送達相手国が拒否していないこと。
�� その他適用される法律で郵送が可能とされていること。
（安達 省吾）
